相続回復請求権イラスト遺産分割協議は相続人全員でしなければならず、一人でも欠けばその遺産分割協議は無効になります。相続人を特定する作業は遺産分割協議の準備として重要であり、慎重に行う必要があります。遺産分割協議には、いつまでにしなければならないといった期限はないので、相続人の構成に変更が生じるおそれがあるときは相続人の範囲が確定するまで協議を進めず保留しておくことも考えられます。

被相続人が前婚で子をもうけていたことを知らなかった、あるいは遺産分割協議成立後に離婚や離縁の無効が確定したなどの事情で、遺産分割協議から共同相続人の一部が漏れていることが現実にはあり得ます。そのような場合、遺産分割協議から漏れた相続人を含めた相続人全員で改めて遺産分割協議をやり直すことになります。

遺産分割協議をやり直すにしても、共同相続人全員が素直に応じてくれるとは限りません。遺産分割協議に応じない共同相続人がいる場合は、遺産分割協議に漏れた相続人から他の共同相続人を相手方とする遺産分割調停を家庭裁判所に申し立て、相続回復請求権を行使することになります。

遺産分割後何十年もたつと相続財産の不動産が第三者に売却されたり、金銭が費消されたりしていることが想定されますが、そのような状況で相続回復請求権が行使されると、相続の当事者および関係する第三者の権利義務関係に混乱が生じます。民法は、相続権の帰属や法律関係を早期かつ終局的に確定させる趣旨で、相続回復請求権は相続権の侵害を知った時から5年、相続開始時から20年の経過により時効により消滅するとしています(民法884条)。

もっとも、一部の共同相続人が、他の共同相続人の一部を意図的に排除して相続財産を自分たちだけのものにしようと遺産分割協議をした場合や、自己の相続分を超えることを知りながら、または合理的理由がないのに自己の相続分を超えるものではないと軽信して自己の相続分を超える分配を受ける内容の遺産分割協議をしたような場合は相続回復請求制度が適用される場面ではないとするのが判例です(最高裁昭和53・12・20)。このような場合、時効期間を経過していても相続回復請求権の時効消滅は認められず、自己の相続権を侵害された相続人は、他の共同相続人に対し遺産分割協議のやり直しを求めることができるものと解されます。

令和2年6月24日福島民報掲載