質問

当社は農業資材を製造販売する株式会社です。当社はAに農業資材を販売してきましたが、Aはここ数ヶ月支払いが滞りがちになり、現在の売掛金残高は100万円ほどになります。当社はAに何度も支払催告をしてきましたが、最近連絡が取れなくなったことから、Aに対する訴訟を検討しています。連絡が取れないAに対する訴訟はどのように進めるのでしょうか。

回答

訴訟を提起するとき、原告は訴状の正本と副本を裁判所に提出します。裁判所は訴状の副本を被告に送達しなければなりません(民事訴訟法138条1項)。送達とは裁判所書記官が訴訟の当事者に訴状等の裁判の書類を交付することをいいます。

1 交付送達

送達は特別の定めがある場合を除き郵便または執行官によってすることとされており(同法99条1項)、通常は郵便によります。この郵便は普通郵便ではなく、特別送達という方式をとります。被告に訴状が配達され受領することで被告に訴状が送達されたことになり、これにより訴訟が係属したことになります。そのため、訴状送達の可否は訴訟提起の重要な問題の一つとなります。

民事訴訟法は、送達は送達を受けるべき者の住所、居所、営業所または事務所(「住所等」といいます)においてするとしています(同法103条1項本文)。住所とは生活の本拠であるところ、居所とは生活の中心となる場所で定住の意思がないような場所をいい、学生寮や社員寮などがこれにあたります。被告の所在が住民票や会社の登記により判明していて、かつ実際にその場所での生活実態、活動実態が認められる場合は、その場所あて特別送達をすることになります。被告の自宅や事務所へ送達したが被告本人、被告代表者が不在である場合は、書類の受領について相当のわきまえのある者に書類を交付することができるとされており、そのような被告の同居人、従業員に交付することで被告への送達として有効になります(同法106条1項)。

被告の住所等が判明していない場合、判明しているものの生活実態、活動実態が認められない、生活実態、活動実態は認められるものの配達時に被告不在のため受領されないなどの事情で送達に支障がある場合、被告の勤め先が判明していれば送達を受けるべき者が雇用、委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(就業場所)あてに特別送達することが認められます(同法103条2項被告の就業場所に送達しようとしたところ被告本人が不在である場合、被告以外の従業員であって書類の受領について相当のわきまえのある者が書類の交付を受けることを拒まないときはその者に書類を交付することができるとされており、その者に交付することで送達として有効になります(同法106条2項)。

なお、訴訟当事者は送達を受けるべき場所を受訴裁判所に届け出なければならないとされており(同法104条1項)、被告の住所等がどこであるかにかかわらず届出があった後は届け出られた場所あて送達されます。

2 付郵便送達、公示送達

以上のような交付送達では、いくら調べても被告の住所、就業場所が判明しない場合や、判明して送達しようとしても被告が訴状を受領しない場合は送達不能となり、訴訟が係属しないことからそのままでは訴訟手続きを進めることができなくなってしまいます。

そこで民事訴訟法は被告が受領しない場合に備えて書留郵便に付する送達(付郵便送達)の規定と、被告の所在が明らかにならない場合に備えて公示送達の規定を置いています。

⑴ 付郵便送達

付郵便送達は被告の住所等が判明しているものの通常の送達ができない場合に、裁判所書記官が住所等、就業場所、届出られた送達先あて裁判の書類を書留郵便または書留郵便に準ずるものに付して発送するという送達方法です(同法107条1項)。付郵便送達の場合、裁判所書記官が裁判の書類を発送したときに相手方当事者への送達があったものとみなされます(同法107条3項)。発送時に送達があったものとみなされるため、被告が故意に訴状を受け取らないような場合であっても送達が可能であり、訴訟手続きを進めることができるようになります。

付郵便送達をするには、表札や看板の有無、郵便受けの配達物のたまり具合、電気メーター、ガスメーターの稼働状況等の確認、近隣住人に対する聴き取りなどの調査を行い、送達しようとしていた場所に被告の生活実態、活動実態があることを裁判所に書面で報告する必要があります。被告の生活実態、活動実態があることが認められなければ付郵便送達はできません。

⑵ 公示送達

被告の住所等、就業場所が不明の場合に、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示板に掲示するという送達方法です(同法111条)。公示送達の場合、掲示を始めた日から2週間を経過することによって送達の効力を生じますが、2回目以降の公示送達は掲示を始めた日の翌日にその効力を生じます(同法112条1項)。

公示送達をするには、被告の住所等、就業場所を調査しても不明であることを裁判所に書面で報告する必要があります。

3 本件の場合

当社は、Aと連絡がとれないとのことですが、まずはAの住民票を取得するなどしてAの住民登録上の住所を調査し、当社が知っているAの住所から移転していないか確認したうえで、当社が知っているAの住所または住民登録上の住所においてAの生活実態が認められるか調査する必要があります。

調査の結果、Aの生活実態が認められる場所が判明したときは、その場所を送達場所として訴状を作成します。訴状の特別送達が不奏功となった場合は付郵便送達を申し立てることになります。Aの生活実態が認められる場所が判明しないときは、公示送達を申し立てることになります。

福島の進路2020年6月号掲載