意思表示と民法改正イラスト契約などの法律行為をするには、当事者が法律行為をする旨の意思を表示する必要があります。意思決定の段階で事実を誤認していたり、意思を表示する際に言いまちがえたりするなど、当事者の真意と実際に表示された意思と意図せずが食い違うことや、冗談のつもりで意思を表示するなど意図して食い違うことがあります。民法はそのような食い違いの類型として心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺・強迫を規定しています。

心裡留保(民法93条)とは、意思表示をしようとするものが真意でないことを知りながら真意でない意思を表示する行為です。贈与する気がないのに贈与すると約束するような場合がこれに当たります。虚偽表示(同94条)とは、表意者とその相手方が表意者の真意ではないことを分かっているような場合の意思表示です。債権者からの追及を免れるために財産の譲渡を仮装するような場合がこれに当たります。錯誤(同95条)とは、意思表示の時点において表意者の認識が事実と食い違っている場合です。甲土地を売るつもりで、乙土地を売ると言ってしまったような場合がこれに当たります。

詐欺・強迫(同96条)は契約の相手方または第三者の欺罔行為や脅しにより意思を表示するもので、その意思形成過程には問題があるものの、意思表示の効果が表意者にとっても都合の良いこともあり得るので、民法はそのような意思表示を当然に無効とはせず、取り消すことができるとしています。

心裡留保、虚偽表示、錯誤の場合の意思表示は、そもそも有効な意思表示がないと考えられ、当然に無効となりそうです。実際、改正前の民法ではこのような場合、意思表示を無効としていました。取消しは取消権者のみが主張できるのに対し、無効は誰にとっても無効であり、誰からでも主張できるのが原則ですが、錯誤の規定は表意者保護のための規定であり、表意者がその意思表示の効力を否定するつもりがないところで第三者の無効主張を認める必要はないと考えられます。改正前民法下において判例は、表意者自身が錯誤による意思表示の無効を主張する意思を有していない場合は、原則として第三者がこの意思表示の無効を主張することはできないと解していました。今般の民法改正では、錯誤による意思表示は「無効」から「取り消すことができる」に改められました。

令和2年4月22日福島民報掲載