質問

当社は、A社から自社社屋用の土地を購入し、社屋建設工事のための調査をしたところ土地からコンクリート片等の埋没物が多数見つかりました。

建設工事を進めるには埋没物の除去が必要であり、除去工事費用につきA社に賠償を請求したところ、A社代表取締役から、本件売買契約には瑕疵担保責任の免責特約があり、当該土地を売却する際の調査では何も見つからず、当社からの賠償請求ではじめて土地の瑕疵を知ったものであることから、A社に賠償責任はないとの回答がありました。

しかし、本件土地はかつてA社が支店店舗用地として利用していたもので、今回の売買契約を締結する際にA社の窓口となったB氏はもともとその支店の支店長を務めていた人物であり、本件土地の埋没物等の存在について知らなかったとは思えません。

当社はA社に対し損害賠償請求できないでしょうか。

回答

1 瑕疵担保責任

売買契約の目的たる物件に契約時から一般の人には容易に発見できないような欠陥により契約した目的を達することができない場合、買主は契約の解除および売主に対する損害賠償請求ができ、これを売主の瑕疵担保責任といいます(民法570条、566条)。売買契約において瑕疵担保責任が認められるには、①売買契約の目的物に「瑕疵」があること、②その瑕疵が「隠れた」ものであること、③買主が瑕疵を知らなかったことが要件になります。

「瑕疵」とは目的物が通常有すべき品質、性能に欠けるところがあることをいい、契約締結時に存在していたことが必要です。建物を建てるつもりで土地を買い受けたところ、都市計画事業上の道路敷地に該当し、いずれ建物は撤去しなければならないというような法律的瑕疵も含まれます(最高裁昭和41年4月14日判決)。

「隠れた」瑕疵とは、買主が売買契約の時点で瑕疵を知らない、または知りえなかった瑕疵をいいます。売主が買主に説明済みの瑕疵、買主が通常の注意を払っていれば知りえた瑕疵などは瑕疵担保責任の対象とはなりません。

買主は瑕疵があるとの事実を知った時から1年以内に契約の解除または損害賠償の請求をしなければならないとされており(同法566条3項)、また目的物の引渡しから10年を超えると損害賠償請求権は時効により消滅するとするのが判例です(最高裁平成13年11月27日判決)。

民法の瑕疵担保責任の規定は任意規定であると解されており、売買契約時に売主が瑕疵担保責任を負わないとする特約を付することができますが、瑕疵担保責任を負わない旨の特約があっても、売主が知りながら告げなかった瑕疵については瑕疵担保責任を免れることができないとされています(同法572条)。

2 免責特約について

売買契約に免責特約が付されている場合、売買目的物の瑕疵に関する売主の悪意につき誰を基準に考えるかが問題となります。

この問題の参考となる近時の裁判例を紹介します。

Yから土地を買い受けたXが、土地中にコンクリート等の障害物が存在していたとしてYの瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求したところ、売買契約には瑕疵担保免責特約が付されており、XがYに対し障害物の存在を通知したのが売買契約から6か月を経過した後であったことから(商法526条3項)、Yが売買契約時に地中障害物の存在を認識していたかどうかが争点となった事案において、裁判所は代理人による意思表示がされた場合の善意または悪意は、意思表示の内容を決定した者について判断するものとし、法人の善意悪意を判断するに当たっては、法律行為が行われた時点の法人の代表者や代理人に限らず、当該法律行為の意思決定に重要な影響を及ぼした者の主観的態様をも考慮するのが相当であるとしました。

そして、Yの経営に大きな影響力を有するYの代表取締役であったCが、本件土地を売却するための手続を進め、CがYの代表取締役を辞任した後に、既定路線として引き継がれた売買契約が締結されたものであり、CがYの意思決定に重要な影響を及ぼしていたと認定し、地中障害物についてYが悪意であったか否かの判断にはCの主観的態様をも考慮すべきであるとし、Cは本件土地にもともと建っていた工場を解体した際に、解体材を野焼きにしてそのまま埋設したことを知っていたのであるから、Yは地中障害物について悪意であったとして、XのYに対する瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を認めました(東京地裁平成29年10月27日判決)。

3 本件の場合

Bが本件売買契約のA社側の窓口として動いていたという事実からすれば、Bは本件売買契約に重要な影響を及ぼすことができたものと考えられ、Bの主観をも考慮して本件土地の瑕疵についてA社が悪意であるか否かを判断すべきものと考えます。そして、Bは売買目的物である本件土地上にあったA社支店の支店長として本件土地の利用状況、A社支店店舗解体後本件土地がどのように更地にされたかの経緯等について知っていたものと推測されます。

したがって、A社は本件土地の瑕疵につき悪意であったとして、当社はA社に対し除去工事費用の損害賠償を求めることができると考えられます。

4 改正民法下での売主の責任

令和2年4月に施行される改正民法では、瑕疵担保責任の規定が削除され、契約不適合責任という考え方に改められました。

契約不適合責任は、売買の目的物が特定物か不特定物かを問わず、契約締結時ではなく契約履行時までに生じた欠陥について生じ、買主には契約解除及び損害賠償のほか、追完請求(改正民法562条)、代金減額請求(同法563条)が認められます。契約不適合責任を追及するには、買主が契約不適合を知ってから1年内に売主に通知することを要しますが、通知さえすれば権利行使自体には期間制限はありません。ただし、その権利は一般の債権と同様消滅時効にかかります(同法166条1項)。

福島の進路2019年12月号掲載