損益相殺イラスト不法行為の被害者が同一の不法行為を原因として一定の利益を受けたときは、その利益の額を加害者が賠償すべき損害額から控除することとし、この控除を損益相殺と呼びます。

被害者が受けた利益につき損益相殺するか否かは、①給付が本来損害の塡補を目的とし、給付の額が定額ではないものか、②給付原因事由が事故と因果関係を有するか、③給付の趣旨からみて損害額から控除することが妥当か、④給付が損害賠償制度との調整規定を設けているか、⑤給付に付いての費用負担者はだれか、⑥給付が負担した費用と対価性を有するかなどを考慮して判断します。

交通事故を例にとると、加害者から被害者に対する支払につき、治療費、医療費、葬儀費の名目を明らかにして支払われた場合でも、当該費目以外の損害からの控除はしないという合意が明確になされたのでない限り、賠償金の内入れ弁済として取り扱われます。香典や見舞金の名目で支払われた場合は、加害者と被害者の関係性を考慮して儀礼的なものとして相当な金額の範囲内であれば損益相殺されません。

労災保険の保険給付は、一般的に保険者である国が損害賠償請求権を代位により取得し、他方で被害者はその分の損害賠償請求権を失うことから損益相殺されます。同じ労災保険法に根拠をもつ給付でも社会復帰促進等事業から支給される種々の特別支給金は保険給付とは性質が異なるため損益相殺されません。国民健康保険などの公的医療保険制度に基づく保険給付は損益相殺されます。

被害者に後遺障害が残った場合は障害年金が支給され、被害者が死亡した場合は遺族に遺族年金が支給されますが、既に給付された分、支給が確定している未給付の分については損益相殺されるのに対し、まだ支給が確定していない将来分については、損害が現実に塡補されたとはいえないとの理由で損益相殺されないとするのが判例です(最高裁平成5・3・24)。

被害者請求による自賠責保険の給付は賠償金の性質をもつものであるため損益相殺されます(最高裁昭和39・5・12)。

被害者が加入していた人身傷害保険による給付は形式的には損益相殺の対象となりますが、事故の過失割合による修正を要すると解されています(最高裁平成24・2・20)。被害者が加入していた生命保険の給付は被害者が負担した保険掛金の対価であることから損益相殺されません。

令和元年8月28日福島民報掲載