質問

当社は、所有建物をAに賃貸しています。Aは契約当初は遅れることなく賃料を支払っていましたが、契約から3年ほどして賃料支払を延滞するようになりました。それでも当社はAとの賃貸借契約は解除せず、延滞額を分納するよう求めるなどの対応をしていましたが、Aから一切応答はなく、現在の延滞額は10年分にも及んでいます。

当社はAの連帯保証人Bから延滞賃料を回収できないでしょうか。

回答

1 連帯保証人の責任

連帯保証とは、保証人が主債務者と連帯して債務を保証するものであり、賃借人の連帯保証の場合、賃料債務、原状回復債務、損害賠償債務など賃貸借契約に基づいて賃借人が負担する債務一切を賃借人と連帯して保証します。

連帯保証は、主債務と連帯しているため通常の保証と異なり補充性が認められず、検索の抗弁(民法452条)、催告の抗弁(同法453条)などの抗弁権がありません(同法454条)。

賃貸借にかかる連帯保証契約において、更新後は連帯保証人の責任を免れるとの約定がない限り、賃貸借契約の更新により保証契約もまた継続し(保証債務の付従性)、連帯保証人は賃貸借契約更新後に生じた賃借人の債務についても保証の責任を負うと解されます(東京地裁平成6年6月21日判決)。

2 不動産賃借人の連帯保証人の責任

不動産賃借人の連帯保証は、金銭消費貸借の連帯保証などとは異なり、延滞賃料の額が変動するうえ賃借物を破損したときの修繕費、原状回復費用など予め予測できないものが多く、賃借人が賃借不動産を明け渡さない限り保証すべき額が際限なく拡大していくおそれがある点で負担が非常に大きいといえます。

判例は、賃貸人の連帯保証人に対する請求は、信義則により制限されることがあるとしており(最高裁平成9年11月13日判決)、連帯保証人の予期に反して保証債務が過大になった場合に信義則に基づき連帯保証人の責任を軽減した裁判例があります。

⑴東京地方裁判所平成20年12月5日判決

賃借人が平成10年から賃料を延滞し始め平成20年までに合計1548万円を延滞して事案において、裁判所は、賃貸人は、漫然と本件賃貸借契約を法定更新させ、契約解除が可能なほどの賃料延滞が発生した後においても、契約解除等の措置を取らず放置したことにより、多額の賃料債務を新たに生じさせたものであるから、平成11年9月30日以降の延滞賃料につき賃貸人が連帯保証人に連帯保証債務の履行を求めることは信義則に反し許されないとしました。

⑵東京地方裁判所平成22年6月8日判決

賃借人の父が賃借人の連帯保証人となり建物賃貸借がなされ、賃借人が平成11年5月ころから全く賃料の支払がなくなり、その後行方不明になったにもかかわらず、賃貸人は平成11年に一度連帯保証人に対して支払督促を行ったのみで、以後積極的に債権回収を図ることもなく、約8年にわたり何らの連絡もせず延滞賃料が2000万円を超えたという事案において、裁判所は、平成14年12月分以降の延滞賃料につき連帯保証人に保証債務の履行を請求することは信義則に反し許されないとしました。

3 最近の裁判例

賃貸人に連帯保証契約上の信義則違反を認めた最近の裁判例を紹介します。

賃借人が賃料を延滞し、将来的にも支払の見込みがなく、賃借人と連絡も取れないような状況で、連帯保証人は保証債務が拡大しないよう、再三、賃借人を退去させるよう賃貸人に伝えていたにもかかわらず、賃貸人は契約解除も明渡執行もせず延滞賃料を累積させたのち、賃貸人が連帯保証人に対し約14年分の延滞賃料請求の訴えを提起したという事案において、裁判所は、賃貸人には連帯保証契約上の信義則違反が認められ、賃貸人が延滞賃料を累積させた経過に照らして連帯保証人からの一方的意思表示による解除が許容されるとして、契約締結から12年以上が経過して連帯保証人が賃借人を退去させるよう求めた時点で、連帯保証契約について黙示的な解除の意思表示がなされていたものと認定し、以後の保証債務については履行を免れると判断しました(横浜地裁相模原支部平成31年1月30日判決)。

4 本件の場合

本件において、当社はAとのやり取りができず、賃料をAから回収することは実質的に不能である状況にありながら、Aとの間の賃貸借契約を解除することなく、明渡執行もせず10年もの期間が経過しています。

これまでの当社とB、AとBとのやり取りの経過によって、BがAの退去を求めたというような事実が認定できる場合は、その時点でBからの一方的意思表示により連帯保証契約の解除が認められ、以降の延滞賃料について当社がBに請求することはできなくなると解するのが妥当でしょう。解除が認められる時点より前の延滞賃料については、Bに対し支払を求めることができるものと考えられます。

Bからの一方的意思表示による連帯保証契約の解除が認められない場合でも、延滞の経過によっては当社が10年分もの多額の延滞賃料をBに請求することは信義則に反するとして請求を一部減縮されることも考えられます。

5 民法(債権法)改正による個人根保証契約の規制

令和2年4月1日から施行される改正民法は、個人による一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(個人根保証契約)について、書面または電磁的記録で極度額を定めなければ契約の効力を生じないとしました(改正民法465条の2第2項、446条2項、3項)。

不動産賃貸借において個人が賃借人の連帯保証人となる場合は上記の個人根保証契約に当たります。現状では不動産賃貸借にかかる連帯保証契約に極度額の定めを設けていない場合がほとんどであると思われますが、来年4月以降に締結する保証契約については極度額を保証契約書(一般的には賃貸借契約書と一体として作成されます)に明記しなければならず、極度額の記載を欠く保証契約は無効とされます。

福島の進路2019年8月号掲載