質問

当社は、当社所有の土地について、A社から店舗用地として購入したい旨の申し入れを受けており、提示された条件が悪くないことから、売却する方向で検討しています。

その土地の登記簿をあらためて取り付け確認したところ、以前に当社が事業用資金を借り入れる際に設定した抵当権がそのままになっていることが判明しました。この借入については既に返済が済んでいるので、抵当権者Bに連絡し抵当権設定登記を抹消しようとしたところ、Bは登記手続に協力してくれません。

当社はこの抵当権設定登記を抹消するにはどうすればよいでしょうか。

回答

1 抵当権の消滅原因

抵当権の消滅が抵当権設定登記の抹消登記手続の前提となりますので、まず抵当権の消滅原因について整理してみます。

抵当権の消滅原因は、大きく分けて被担保債権の消滅によるものと被担保債権から独立して抵当権自体が消滅するものの2つに分類することができます。

(1)被担保債権の消滅による抵当権消滅

抵当権は担保物権であり、被担保債権がなければ成立せず、被担保債権が消滅すれば抵当権もまた消滅します(抵当権の付従性)。

被担保債権の消滅原因としては、被担保債権の全部の弁済、代物弁済(民法482条)のように債権を満足させる行為が挙げられます。一部弁済のみでは、抵当権者はなお抵当不動産の全部についてその権利を行使することができるため、部分的に抵当権が消滅するものではありません(抵当権の不可分性、同法372条、296条)。

被担保債権の消滅時効が完成(同法167条1項)した場合も被担保債権は消滅し付従性により抵当権は消滅します。

(2)抵当権自体の消滅

 1)抵当権設定契約の解除

留置権、先取特権のように一定の要件により法律上当然に成立する法定担保物権と違い、抵当権は目的物所有者と債権者との間の抵当権設定契約により成立する約定担保物権です。そのため、契約当事者間の合意に基づき抵当権設定契約を解除すれば、被担保債権の存否にかかわらず抵当権は消滅します。

 2)抵当不動産の第三取得者保護のため民法が定める抵当権消滅原因

①代価弁済

民法は、抵当不動産について所有権または地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅するとしています(同法378条)。

②抵当権消滅請求

民法は、抵当不動産の第三取得者は、債権者が2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、代価または特に指定した金額を債権の順位に従って弁済しまたは供託すべき旨を記載した書面などを各抵当権者に送付して、抵当権消滅請求をすることができるとしています(同法379条、383条)。

 3)抵当権の消滅時効の完成

民法は、抵当権は、債務者および抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しないとしています(民法396条)。債務者および抵当権設定者との関係では、被担保債権から独立して抵当権のみが時効消滅することはありませんが、不動産の第三取得者や後順位抵当権者との関係では消滅時効にかかります。

抵当権は、債権または所有権以外の財産権に当たるため、その消滅時効の期間は20年です(同法167条2項)。消滅時効は権利を行使できるようになった時から進行を開始することになりますが、抵当権を行使できるようになるのは被担保債権につき弁済が滞り、債務者が期限の利益を喪失した時点からです。

抵当権は債務そのものではなく、債務の承認による時効の中断を観念することができないため、物上保証人や不動産の第三取得者が主債務の存在を承認しても抵当権の時効は中断されません。

 4)抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅

不動産を自己のものだと信じて平穏公然に20年間占有を続けるか、過失なく自己のものだと信じて占有を開始し平穏公然に10年間占有を続けることで、不動産の所有権を時効取得することができます(同法162条)。時効取得は原始取得とされ、前に有していた者からその権利を承継するのではなく、新たに独立した権利を取得するものとされ、前権利者が負っていた負担を承継することはありません。

 以上のような取得時効の効力の点から、民法は、債務者または抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権はこれによって消滅すると規定しています(同法397条)。

2 本件の場合

抵当権者Bが所在不明になり連絡が取れないような場合は、簡易裁判所の公示催告の制度を利用して簡便な方法により抵当権抹消の登記手続をする余地がありますが(不動産登記法70条)、本件では、Bの所在は明らかであり、Bの登記手続への協力を得ることができないというのであれば、Bを被告として抹消登記手続請求訴訟を提起し、その判決をもって登記手続をするしかありません。

当社は借入について返済済みとのことであり、被担保債権の消滅により本件土地の抵当権も消滅していると考えられます。弁済証書やB名義の領収書など弁済したことの証拠が残っていれば立証も容易です。

弁済の事実の立証が困難な場合であっても、本件では抵当権設定から長期間が経過しているので、被担保債権の消滅時効完成による抵当権消滅を主張する余地がありそうです。

また、A社との交渉次第では、抵当権付きのまま本件土地をA社に売却し、A社においてBに対し抵当権消滅請求をしてもらうことも考えられます。

福島の進路2019年7月号掲載