過失相殺イラスト

民法は、不法行為に関し被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができるとしています(民法722条2項)。

自動車の運転を誤って歩行者を負傷させた交通事故の加害者は、被害者に対し損害賠償義務を負いますが(同709条)、急に車道に飛び出したなど歩行者にも落ち度がある場合にまで加害者に損害の100%を賠償させるのは当事者間の公平を欠きます。民法722条2項は、当事者間の公平を図るために加害者、被害者双方の落ち度に応じて双方に損害を分担させるよう調整するもので、この調整を過失相殺と言います。

過失相殺は、損害の発生に関することについてだけでなく、自宅に延焼した火災を発見し、消火活動が可能なのに速やかに消火しなかったために火災が拡大したというように損害の拡大にかかわる被害者の落ち度も対象になります。

被害者と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の落ち度も過失相殺の対象になります。夫が妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが、第三者と夫との双方の過失の競合により衝突したため、傷害を被った妻が第三者に対し損害賠償請求した事案において、夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができるとした裁判例があります(最高裁昭和51・3・25)。

民法は、債務不履行に関し債権者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の責任およびその額を定めるとして、債務不履行による損害賠償においても過失相殺を規定しています(同418条)。決められた日時に商品を届ける契約の売主が、契約後買主が売主に連絡することなく引っ越してしまったため約束の日時に商品を届けられなかったというような場合には、過失相殺が問題となります。

条文上、債務不履行において債権者に過失が認められるときは、裁判所は必要的に過失相殺を判断しなければならず、債務者の損害賠償責任を否定する判断もできるのに対し、不法行為において被害者の過失が認められるときは、裁判所は被害者の過失を斟酌できるにとどまり、加害者の損害賠償責任の免責の判断まではできないという違いがあります。

過失相殺においてそれぞれの当事者が負担することになる損害の割合を過失割合と呼び、個別の事案ごとの事情を総合考慮して計算することになります。

令和元年6月26日福島民報掲載