入院患者の連帯保証人

質問

当病院では従来から入院患者に対し入院費用等の担保のため、連帯保証人および身元引受人をつけるよう患者に求めています。医療機関、患者、連帯保証人、身元引受人の法律関係はどうなるでしょうか。
また、近時民法(債権法)が改正されたと聞きましたが、本改正は法律関係に影響するのでしょうか。

回答

1 民法上の法律関係

医療機関と患者との間では、診療に関し合意により診療契約が成立します。診療契約は民法上の準委任契約(民法656条、643条)に当たると解されますが、診療契約に基づき、医療機関は患者に対し患者の疾病等の治療、健康の回復、維持、増進をはかる義務を負い、患者は医療機関に対し主訴、現病歴、既往歴、入院歴、手術歴、内服状況といった事項の正確な情報提供を行う義務、診療への協力義務、医師等からの指示・アドバイスの遵守義務、医療機関および他の医療機関利用者に対し迷惑行為をしない注意義務、医療費等の支払義務、義務違反により医療機関に損害を与えたときの損害賠償義務などを負うことになります。

多くの診療は保険診療になると思われますが、保険診療は健康保険法及び国民健康保険法により、保険医療機関は被保険者である患者に対し、療養給付義務を負い、被保険者である患者は医療機関に対し、療養の給付に関する費用の一部(自己負担分)を負担する義務を負い、保険診療外の診療いわゆる自由診療においては、患者が医療費全額を支払う義務を負います。

そこで患者が負担する医療費を担保するために、連帯保証人を求めることが考えられます。

診療契約にかかる患者の医療機関に対する債務を主債務とする連帯保証人となった場合、連帯保証人は医療機関との関係では主債務者である患者と同様の支払責任を負うことになり、医療機関から連帯保証人に医療費支払債務、損害賠償債務等の履行を求めた場合、主債務者からの支払の可否にかかわらず、連帯保証人はいつでも支払に応じなければならないという責任を負います(同452条、453条、454条)。

また、入院患者には、連帯保証人のほか、身元引受人(身元保証人)を求めることが多いと思われます。医療費等の支払にかかる金銭債務についての連帯保証と、意思疎通が困難な患者に代わる意思決定や患者死亡時の引き取り等にかかる身元引受とを分掌するものですが、連帯保証人と違い身元引受人については民法上明文の規定があるわけではなく、身元引受人の責任は個別の契約ごとに異なってきます。「身元保証ニ関スル法律」という法律がありますが、これは労働契約や雇用契約に関する契約に適用されるものであり、入院患者の身元引受人に適用されるものではありません。

一般に、連帯保証人については患者と独立した生計を営み支払能力を有する成年者であることを条件とすることが多いようですが、身元引受人については特に資力等の条件を求めず成年者であればよいとして同居の親族等がなることが多いようです。

2 民法(債権法)改正の影響

現行の民法は明治29年制定後、債権法の見直しはほとんどされずにきましたが、昨今の取引の複雑高度化、社会の高齢化、情報化の進展に対応しつつ、民法を国民一般に分かりやすいものにするための改正として、平成29年5月に「民法の一部を改正する法律」が成立し、令和2年4月1日から施行されます。

今回の改正では個人保証について重要な見直しが行われ、入院患者にかかる連帯保証にも影響が出るものと考えられます。

継続的な取引関係に基づいてこれから発生する不特定多数の債務を主債務として将来にわたって保証する契約を根保証契約と呼びます。現行法は、一定の範囲に属する不特定の債務を主債務とする保証契約であってその範囲に金銭の貸借または手形割引による債務が含まれるものにつき個人が保証人となる場合(個人貸金等根保証契約)について書面または電磁的記録で極度額を定めなければ契約の効力を生じないとしていますが(同465条の2)、改正法は、極度額を定めなければならないという規定の対象を個人による根保証契約一般(個人根保証契約)に拡大しました(改正民法465条の2第2項、446条2項、3項)。

医療費、入院費は、診療契約に基づき発生し、患者の受診状況、支払状況により額が変動し未払が生じることもあります。入院患者に診療契約にかかる債務不履行や不法行為による損害賠償債務が発生することもあります。これらの診療契約にかかる一切の債務を主債務とする連帯保証は根保証に当たります。

現在すでに成立している根保証契約には現行法が適用されますが、改正法施行日より後に締結される根保証契約には改正法が適用されます。来年4月1日以降新たに入院患者にかかる連帯保証を求める場合は、書面または電磁的記録により極度額を定めておかなければ、保証の効力が生じないことになるので、今から連帯保証契約書の修正などの準備を進めておくべきでしょう。

3 入院費用等の担保として連帯保証以外の方策

現在、医療機関は入院費用等の担保のため入院患者にかかる連帯保証人を求めるのが一般的ですが、実際に未収となった費用を連帯保証人から回収する実効性は必ずしも高いとはいえない状況がみられます。また、このまま日本の社会の少子高齢化が進行すると、身寄りがないために入院時に連帯保証人を準備することができない患者が増加していくことが予測されます。

入院費用等の担保として、連帯保証契約の見直しと並行して、患者にクレジットカードの番号を登録してもらう、保証会社の利用を求める、入院時に患者から預り金(入院保証金)を徴収するなどの方策についても採用を検討することが必要でしょう。

福島県病院協会会報2018年11月号掲載