26 寄託

(1)寄託契約の成立

寄託契約につき、旧法は要物契約としていますが(旧法657条)、新法は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立するとして諾成契約に改めました(新法657条)。

(2)寄託物受取前の当事者の関係

新法は、寄託契約を諾成契約に改めたことから寄託物受取前の当事者の関係について次のような規定を設けました。

1) 寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで契約の解除をすることができ、解除により受寄者が損害を受けたときは受寄者は寄託者に損害賠償請求できる(新法657条の2第1項)。

2) 無報酬の受寄者は、書面による寄託の場合を除き、寄託物を受け取るまで契約を解除することができる(同条2項)。

3) 上記2)の場合を除き、受寄者は寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず寄託者が寄託物を引き渡さないときは受寄者は相当の期間を定めて引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは契約を解除することができる(同条3項)。

(3)受寄者の責任、義務

1)再寄託の可否

旧法、新法ともに寄託契約において原則として受寄者は自己執行義務を負いますが(旧法、新法とも658条1項)、旧法には寄託者の承諾がない場合の再寄託の可否について明文の規定がないことから、新法はやむを得ない事由があるときは寄託者の承諾なしに再寄託できるとしました(新法658条2項)。

2)再受寄者の選任、監督責任

旧法は再寄託について復代理に関する旧法105条を準用し、適法な再寄託における受寄者の責任を軽減しています。この責任軽減には合理的理由がないとの批判があること、新法では旧法105条が削除されることから、新法は、旧法658条2項の規定を削除し、再受寄者は寄託者に対しその権限の範囲内において受寄者と同一の権利、義務を有するとしました(新法658条3項)。

3)返還義務、通知義務

旧法は、受寄者の寄託者に対する寄託物の返還義務について明文の規定を置いていませんが、受寄者は、寄託契約に基づき寄託者に対して寄託物の返還義務を負い、寄託者以外の第三者から寄託物の返還請求を受けても原則として寄託物を引き渡してはならないと解されており、新法はこれを明文化しました(新法660条2項本文)。ただし、寄託物の返還請求をしてきた第三者に寄託物を引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む)があり、その第三者に寄託物を引き渡したときは、受寄者は寄託者への寄託物返還義務を免れるとしました(同条2項但書)。

旧法は、第三者が受寄者に対し訴えの提起、差押え、仮差押え、仮処分をしたときは、受寄者は遅滞なく寄託者にその事実を通知しなければならないとしています(旧法660条)。これは、寄託者自らの防御の機会を保障する趣旨であることから、新法は、寄託者が訴え提起等の事実を既に知っているときは受寄者は通知義務を負わないとしました(新法660条1項但書)。

(4)寄託者による返還請求

当事者が寄託物の返還時期を定めたときであっても、寄託者はいつでもその返還を請求することができますが、新法は、寄託物の定められた返還時期より前の返還請求により受寄者が損害を受けたときは寄託者に対し賠償請求できるとしました(新法662条2項)。

(5)損害賠償請求権および費用償還請求権の期間制限

旧法は、寄託物の一部滅失または損傷により寄託者に生じた損害の賠償請求および受寄者が支出した費用の償還請求について明文の規定を置いていませんが、新法は、賠償請求、償還請求いずれについても寄託者が寄託物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないとしました(新法664条の2第1項)。また、寄託物の一部滅失または損傷により生じた損害については、寄託者が寄託物の返還を受けて初めて気付くことも想定されるため、寄託者の損害賠償請求権は返還を受けた時から1年を経過するまでの間は時効は完成しないとしました(同条2項)。

(6)混合寄託

新法は、代替性のある寄託物につき、受寄者が複数人から寄託を受けて混合して保管し、寄託された物と同数量の物を返還するという特殊な形態の寄託として混合寄託の規定を新設しました(新法665条の2)。

(7)消費寄託

旧法は、消費寄託について寄託物の返還に関する部分を除き、消費貸借の規定を準用しています(旧法666条1項)。新法は、消費寄託について寄託の規定を適用し、消費貸借にかかる貸主の引渡義務(新法590条)や価額償還(新法592条)の規定のみを準用することとしました(新法666条2項)。

新法は、預貯金契約について消費貸借にかかる返還時期、賠償請求についての規定(新法591条2項、3項)を準用するとしました(新法666条3項)。

27 組合

(1)総則規定の不適用

新法は、出資債務を履行しない組合員と他の組合員の関係について、出資債務を履行しない組合員が、組合からの収支債務履行請求に対し、外にも出資債務を履行していない組合員がいることを理由に同時履行の抗弁を主張して請求を拒むことはできないとしました(新法667条の2第1項)。また、他の組合員が組合契約上の債務を履行しないことを理由として、組合契約を解除することもできないとしました(同条2項)。

(2)意思表示の無効、取消し

組合契約も契約である以上、当事者の意思表示を要することから、心裡留保など意思表示に問題がある場合(旧法93条~96条)契約全体が無効または取り消され得ることになるのか問題となりますが、新法は、組合員の一人について意思表示の無効または取消しの原因があっても、他の組合員においては組合契約はその効力を妨げられないとしました(新法667条の3)。

(3)組合員の持分と損失分担の割合

1)組合員の持分

旧法は、組合財産は総組合員の共有に属するとしていますが(旧法668条)、個々の組合員は組合財産に対する潜在的持分を有するものの、それを自由に処分したり分割請求したりすることはできないとされています(旧法676条)。

新法は、組合員が組合財産である債権について、その持分についての権利を単独で行使することはできず(新法676条2項)、組合員の債権者が組合財産に対してその権利を行使することができないとしました(新法677条)。

2)損失分担の割合

組合の債権者は組合財産について権利を行使することができますが、新法は、債権者が債権発生時に各組合員の損失分担の割合を知らなかったときは、定められた各組合員の損失分担の割合か等しい割合か選択的に権利を行使できるとしました(新法675条)。

(4)業務執行と組合代理

1)業務執行権の所在の明確化

旧法は業務の執行は組合員の過半数で決するとしていますが(旧法670条1項)、その執行については規定を置いていません。新法は、組合の業務は各組合員が執行するものとしました(新法670条1項)。

また、業務の決定、執行は、組合契約の定めるところにより、一人または数人の組合員または第三者(業務執行者)に委任することができるとし(同条2項)、業務執行者が数人あるときは、組合の業務は業務執行者の過半数をもって決定し、各業務執行者が執行するとしました(同条3項)。

2)組合代理規定の新設

新法は、組合員は業務執行において、組合員の過半数の同意を得たときは、他の組合員を代理することができるとしました(新法670条の2第1項)。業務執行者があるときは、業務執行者のみが組合員を代理することができ、業務執行者が数人あるときは、その過半数の同意を得たときに限り組合員を代理することができるとしましました(同条2項)。

(5)組合員の加入、脱退

新法は、組合成立後の新たな組合員の加入について、組合員全員の同意または組合契約の定めるところにより加入させることができるとしました(新法677条の2第1項)。新たに加入した組合員は、加入前に生じた組合の債務について弁済する責任を負わないとしました(同2項)。

新法は、脱退した組合員は脱退前に生じた組合の債務について従前の責任の範囲内で弁済する責任を負うとしました(新法680条の2第1項)。

(6)組合の解散

旧法は、組合はその目的である事業の成功または成功の不能によって解散するとしています(旧法682条)。

新法は、これに加え組合契約で定めた存続期間の満了、組合契約で定めた解散事由の発生、総組合員の同意によっても解散するとしました(新法682条)。

28 経過措置

意思表示や契約が新法施行日(令和2年4月1日)より前のものであれば旧法が適用され、施行日以降のものであれば新法が適用されます。施行日以降に更新した契約は原則として新法が適用されます。

福島の進路2019年5月号掲載