18. 契約総論

(1) 他人物贈与

旧法は、贈与について「自己の財産を無償で相手方に与える」と規定していますが(旧法549 条)、新法は「ある財産を無償で相手方に与える」と規定し、他人物の贈与契約も有効に成立することを明文化しました(新法549 条)。

(2) 贈与者の引渡義務

旧法は、贈与者が贈与の目的である物または権利の瑕疵または不存在についてその責任を負わないとしています(旧法551 条1 項本文)。贈与者は契約締結時の状態で権利を移転する義務を負いますが、契約締結時から履行期までは自己の財産と同一の注意による管理で足りると考えられることから、新法は贈与の目的である物または権利を贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、または移転することを約したものと推定するとの規定を設けました(新法551 条1 項)。

19. 売買

(1) 手付

旧法は、手付につき当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができるとしています(旧法557 条)。これは履行に着手した相手方を保護するためのものであり、相手方が着手していなければ自らは履行に着手していても手付解除することが認められると解されます。新法は、「ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない」との但書を加え、相手方が履行に着手するまでは履行に着手した当事者が手付解除できることを明文化しました。

(2) 売主の義務

旧法は、売主の財産権の移転義務のみを規定していますが(旧法555 条)、新法は売主が買主に登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負うものとしました(新法560 条)。
新法は、売買の目的とした権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部についても移転義務を負うことを明文化しました(新法561条)。

(3) 契約不適合責任

旧法は、売買の目的となる物や権利に瑕疵がある場合について売主の瑕疵担保責任を規定していますが(旧法570 条、566 条)、新法は瑕疵担保責任の規定を削除し、契約不適合責任の規定を設けました。契約不適合責任の内容は以下のとおりです。

1)追完請求

旧法は、特定物売買において目的物に瑕疵があった際に買主がその修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡し等を求める根拠となる規定を置いていませんが、新法は特定物売買であるか不特定物売買であるかにかかわらず、引き渡された目的物の種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しないときは、買主は売主に対し目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができることとしました。ただし、買主に不相当な負担を課すものでなければ、売主は買主が求める追完の方法と異なる方法により追完することができるとされています(新法562条1 項)。契約不適合の原因が買主にあるときは、買主は追完請求することはできません(同2 項)。

2)代金減額請求

旧法は、売買の権利の一部が他人に属するため売主がその権利を買主に移転することができないときや、数量指示売買において不足があるときについては買主の代金減額請求権を認めていますが(旧法563 条、565 条)、売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合の買主の売主に対する代金減額請求権を認める規定を置いていません。
新法は、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間中に履行の追完がないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるとしました(新法563 条1 項)。履行の追完が不能であるとき、売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき、契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行しなければ契約をした目的を達することができない場合において売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき、その他買主が履行の追完の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるときは、履行の追完の催告なしに直ちに代金の減額を請求することができるとしました(同2項)。契約不適合の原因が買主にあるときは、買主は代金減額請求することはできません(同3 項)。

3)損害賠償請求

旧法は、目的物に瑕疵がある場合の売主の瑕疵担保責任として買主に対する損害賠償責任を規定しています(旧法570 条、566 条1 項)。旧法の瑕疵担保責任は、債務不履行責任(旧法415 条)とは別個の法定責任であると解するのが一般的ですが、新法の契約不適合責任は債務不履行責任の特則とされ(新法564 条)、損害賠償の範囲などについては債務不履行の一般原則に従うことになります。

4)契約の解除

旧法は、売主の瑕疵担保責任に基づき買主が契約を解除することを認めています(旧法570 条、563 条2 項、566 条1 項)。新法の契約不適合責任は債務不履行責任の特則とされましたので、債務不履行解除の規定に基づき解除することになります(新法564 条、541 条、542 条)。

5)期間制限

旧法は、瑕疵担保責任に基づく契約の解除または損害賠償の請求は、買主が瑕疵の事実を知った時から1 年以内にしなければならないという期間制限を設けています(旧法566 条)。新法は、売主が種類または品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主が不適合を知った時から1 年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主はその不適合を理由として追完請求、減額請求、損害賠償請求、契約解除をすることができないこととしました(新法566条)。旧法では1 年以内に損害賠償請求等の権利行使をしなければなりませんが、新法では不適合を知った時から1 年以内に通知しておけば、権利行使自体は不適合を知った時から5 年以内にすれば足りることになります。
数量不足である場合、移転した権利が契約不適合である場合、権利の一部が移転されない場合は通知について期間制限が適用されません。また、引渡時に売主が契約不適合を知りまたは重過失により知らなかった場合も、通知について期間制限が適用されません。

(4) 同時履行の抗弁

旧法は、双務契約において当事者双方の債務は同時履行の関係に立つ規定としています(旧法533 条)。新法は、双務契約において当事者の一方の債務が履行不能となった場合の当該債務の履行に代わる損害賠償債務ともう一方の当事者の債務とが同時履行の関係に立つことを明文化しました(新法533 条)。売主の担保責任に基づく填補賠償債務と買主の代金支払債務とが同時履行の関係に立つとする旧法571 条は、売主の瑕疵担保責任の規定と併せて削除されました。

(5) 権利を取得することができないなどのおそれがある場合の買主による代金支払拒絶

旧法は、売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部または一部を失うおそれがあるときに、代金の全部または一部の支払を拒むことができるとしています(旧法576 条)。この規定は、目的物上に用益物権があると第三者が主張している場合などに類推適用されていることから、新法は、売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部もしくは一部を取得することができず、または失うおそれがあるときは、その危険の程度に応じて、代金の全部または一部の支払を拒むことができるとし、買主の権利取得の前後を問わず、売買の目的について用益物権があると主張する者がいる場合にも代金支払を拒絶できることを明文化しました(新法576 条)。

(6) 危険負担

旧法534 条は、特定物売買について債務者の帰責事由によらない目的物の滅失、損傷について債権者である買主の負担としていますが、新法はこの規定を削除し、特定物売買か不特定物売買かを問わず、引渡時を基準として売主から買主に危険が移転することとしました。目的物が契約の内容に適合しない場合であっても引渡により危険は移転します。危険が移転した後の買主は、引渡後に生じた目的物の滅失、損傷を理由として履行の追完請求、代金額請求、損害賠償請求、契約の解除をすることができず、代金の支払を拒むこともできません(新法567 条1 項)。
また、新法は売主が契約の内容に適合する目的物を引き渡そうとしているのに買主が受領を拒絶している場合は、引渡未了であっても買主に危険が移転することとしました。
(新法567 条2 項)。

(7) 買戻し

旧法は、買戻しの際に売主が買主に支払う金額を買主が支払った代金及び契約の費用に限定していますが(旧法579 条)、新法は当事者が別段の合意をした場合は、その合意により定めた金額により買い戻すことを認めました(新法579 条)。

福島の進路2019年1月号掲載