質問

コーポレートガバナンスは会社経営の要と言われますが、コーポレートガバナンスに関して経営者としてどのような点に留意すべきでしょうか。

 

回答

1 コーポレートガバナンスとは

コーポレートガバナンス(企業統治)とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等いわゆるステークホルダーの立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための枠組みを意味します。

日本では間接金融中心の金融構造や、株式の持ち合いを背景として、伝統的に株主の会社に対する影響力が弱かったために株主の利益のために経営を監視するという動機が乏しかったものの、経済のグローバル化の進展や持ち合い解消が進んだこと、会社の不祥事や長期にわたる業績不振などに起因し、2000年代前半から国内でもコーポレートガバナンスへの関心が高まりました。

会社は、継続的にその企業価値を高めていくことが求められますが、会社がコーポレートガバナンスを導入し、それが経営者に対する監視として有効に機能することにより、会社の活動が企業価値の向上に向けたものになるよう経営者に動機付けるものとして機能することが期待できます。

コーポレートガバナンス導入の要請は、上場企業のように会社の所有者である株主と経営者とが明確に分離している場合により強く働くものですが、会社の所有者である株主と経営者が一致することが多い中小企業にあっても、コーポレートガバナンスを導入することにより企業価値が向上することが期待できることから、積極的に導入すべきものと考えられます。

2 コーポレートガバナンスの基本原則

コーポレートガバナンスの主要な原則として以下の5つが挙げられます。

経営者はこの5つの原則を意識した経営をすることが求められます。

(1)株主の権利・平等性の確保

会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行い、株主の実質的な平等性を確保する必要があります。

少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使にかかる環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから十分に配慮する必要があります。

株主はコーポレートガバナンスの規律における起点となり、会社と株主とが適切に協働し持続的な成長に向けた取り組みをすることが求められます。株主の権利行使の環境整備をし、取り扱いの平等性について株主から信認を得ることは、株主からの支持の基盤を強化することにつながります。

(2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働

会社は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとするさまざまなステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果として会社の持続的な成長や中長期的な企業価値の創出があることを十分認識し、これらのステークホルダーと適切な協働に努めなければなりません。

経営者は、ステークホルダーそれぞれの権利、立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成を心掛けなければなりません。

(3)適切な情報開示と透明性の確保

会社は、会社の財務状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスにかかる情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組む必要があります。

株主に開示・提供される情報が会社と株主の間で建設的な対話を行ううえでの基盤となることを踏まえ、会社は、正確で株主にとってわかりやすく、情報として有用性の高いものとなるように開示、提供しなければなりません。

情報の適時適切な開示・提供は、市場における会社の信頼性確保には不可欠な要素であり、会社は法令に基づく開示以外の情報の提供にも主体的に取り組むのが望ましいといえます。

(4)取締役会の責務

会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善をはかるべく、①経営戦略等の大きな方向性を示すこと、②経営幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと、③独立した客観的な立場から、経営者に対する実効性の高い監督を行うことなどの役割、責務を適切に果たさなければなりません。

適切なリスクテイクと考えられる場合でも、外部環境の変化その他の事情により結果として経営者の意思決定が会社に損害をもたらすことはあり得ますが、経営者が損害賠償責任を負うか否かは、その意思決定過程の合理性が重要な考慮要素となります。コーポレートガバナンスはその意思決定の過程の合理性を担保することに寄与します。

(5)株主との対話

会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行わなければなりません。経営者は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心、懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主にわかりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めなければなりません。

経営者として株主と平素から対話を行い、具体的な経営戦略や経営計画などに対する理解を得るとともに懸念があれば適切に対応を講じることは、経営の正統性の基盤を強化し、持続的な成長に向けた取り組みを行うのに資するといえるでしょう。

福島の進路2023年3月号掲載