質問

現在、当社では従業員の副業を認めてきませんでしたが、近年、従業員から副業の許可を求める声が増えており、これを認めるようにする方向で検討しています。従業員の副業を認める場合どのような点に留意すべきでしょうか。

回答

1 従業員の副業の制限

ひと昔前までは多くの会社が原則として従業員の副業を禁止してきましたが、政府は平成30年を「副業元年」と位置づけ、以来「働き方改革」の一環として従業員の副業を推進しています。令和元年の民間会社の調査によれば、従業員への副業を推進している会社および容認している会社の割合は30.9%にも上り、この割合は今後も高まっていくものと思われますが、一方で未だ多くの会社は従業員の副業に制限を設けていることが分かります。

そもそも、雇用契約および労働契約上、在職中の従業員は労働時間内において会社の指揮命令に従うべき義務を負うものの、労働時間以外の時間においては私生活の自由があることから、労働時間外での副業については原則として従業員の自由であると解されます。

そのため、例外的に副業を制限することが認められる事情として、労働時間外に副業をすることにより①労働時間が長時間に及び従業員が心身の健康を害し、本業における業務遂行に支障を来す可能性が認められる場合、②従業員が雇用契約上負っている会社の業務上の秘密を守る義務に反する可能性が認められる場合、③従業員が雇用契約上負っている会社と競合する業務を行わない義務に抵触する可能性が認められる場合、④従業員が労働契約の附随する義務として負っている会社に対する忠実義務に抵触するような会社の名誉、信用を毀損する行為をする可能性が認められる場合などが考えられます。

2 従業員の副業を認める場合の注意点

従業員の副業を許容する場合、上記①~④のような不都合な事情が生じることがないよう適切に対応しなければなりません。

⑴就業規則等の整備

まず、就業規則において、原則として、従業員は副業を行うことができること、例外的に、上記①~④のいずれかに該当する場合には、副業を禁止又は制限することができることとし、併せて、副業を認める業種や業態、副業を始める際の従業員の手続き、副業にあてる労働時間等の状況を把握するため制度についても検討し、規定しておく必要があります。

さらに、就業規則に違反する形で副業を行った場合の懲戒処分の内容についても検討し、規定しておくべきでしょう。ただし、形式的に就業規則に抵触する形で副業を行った場合でも、職場秩序に影響せず、使用者に対する労務提供に支障を生ぜしめない程度、態様のものについて、就業規則違反に当たらないとし懲戒処分を認めなかった裁判例もあることから、懲戒処分を行う場合はただ就業規則に抵触したという事情だけでなく、職場秩序に影響を及ぼしたか否か等の諸事情をも考慮することが必要です。

⑵従業員の労働時間管理および健康管理

労働基準法第38条1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合も含むとされています。

そのため、意図せずに労働基準法32条が定める労働時間の制限(原則として1週間について40時間)を超えて従業員に労働させたり、時間外労働に対する割増賃金が不払いとなったりしないよう、副業を行う従業員の労働時間を正確に把握し、管理する必要があります。

会社としては、基本的に副業を行う従業員から申告を受けてその労働時間を把握することになると考えられますので、申告のための制度を構築したうえで、副業を行う従業員に対し労働時間を会社に申告するよう周知しておくことが必要です。

なお、他社の会社役員や特定の事業や事務所に属さずに個人事業主やフリーランスとして副業に従事する場合、それらには雇用関係がないためそもそも労働基準法の適用がないので、副業に従事した時間について労働時間に通算することは不要です。もっとも、労働基準法上の労働時間の通算が不要な場合だとしても、従業員が過労にならないよう従業員の健康管理の観点から、会社は従業員が副業に従事した時間を把握しておくべきでしょう。

また、労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定しており、会社は従業員に対する安全配慮義務を負っています。

従業員に副業を認める場合、当該従業員が仕事に従事する時間は増加するため、長時間労働による健康障害の危険性は高まるものと解され、実際に健康障害が生じてしまった場合、会社は当該従業員に対する安全配慮義務違反が問われかねません。会社としては、従業員に健康障害が生じる前に、副業での労働をも考慮した健康管理措置をとる必要があります。

⑶従業員の秘密保持義務、競業避止義務、誠実義務についての注意喚起

従業員は、労働契約上、労働の内容・労働提供方法・労働場所などについて使用者の指揮に従う誠実義務を負うほか、労働契約に基づく付随的義務として営業秘密の保持義務、競業避止義務を負うものと解されます。

専業の従業員と比して、副業を持つ従業員は誠実義務、秘密保持義務、競業避止義務に反することになる危険性が大きくなるものと一般的に考えられることから、会社は、副業を始めようとする従業員には、業務上の秘密となる情報の範囲や、業務上の秘密を漏洩しないこと、また、禁止される競業行為の範囲や、会社の正当な利益を害しないことについて注意喚起しておくべきであり、会社の対応として確認書により従業員の意思表明を求めておくことも考えられます。

福島の進路2022年12月号掲載