質問

当社は、従業員が建物を借りる際の連帯保証人を準備できない場合に、連帯保証人になることがあります。従業員が家賃を数か月分滞納しても貸主が賃貸借契約を解除しない場合、当社が賃貸借契約を解除し借主である従業員に代わって建物を明け渡すことができるでしょうか。

回答

1 建物賃貸借契約における連帯保証人の立場

借主が家賃の支払いを怠ったため貸主が連帯保証人に滞納家賃の支払いを求め、連帯保証人が家賃を弁済するような場合、家賃の回収はできているので貸主が直ちには賃貸借契約を解除しないことがあります。

連帯保証人は、賃貸借契約を解除し建物明渡を求めるよう貸主に対しお願いしたり、建物から退去するよう借主に対し求めたりすることはできますが、貸主、借主が応じてくれなければそれまでで、借主が所在不明になってしまうと、連帯保証人は家賃を支払い続けながら借主に求償することはできないという踏んだり蹴ったりの目に遭う可能性があります。

だからといって、連帯保証人が勝手に借主の建物内の物品を運び出すような自力救済は許されません。

2 連帯保証人による建物賃貸借契約解除及び建物明渡代行の可否

連帯保証人が賃貸借契約を解除できるかとの点について、原則として契約当事者以外の者が契約の解除権を持つことはありません。

連帯保証人が弁済することにより債権者に代位するとしても、債務不履行に基づく解除権については債権者のみが行使することができるとされており(民法502条4項)、連帯保証人が借主の滞納家賃を弁済しても、賃貸借契約の解除権を行使することはできません。

もっとも、契約自由の原則からすれば、貸主、借主、連帯保証人の3者の合意により一定の条件のもとに連帯保証人に賃貸借契約の解除権を付与することは許容される余地があります。

また、連帯保証人による建物明渡の代行については、自力救済禁止の潜脱となる無限定な自力救済を認める条項は許容されないにしても、3者の合意により一定の条件のもとに連帯保証人に明渡代行権限を付与することは許容される余地があります。

この点に関し、借主が行方不明等の理由により家賃等を滞納した場合の賃貸借契約の解除権、明渡の代行及び建物内に残された動産物の処分権を連帯保証人と家賃債務保証業者に与え、貸主と連帯保証人または家賃債務保証業者の合意により行使されたとしても借主は一切異議を申し立てないとする条項(いわゆる「追い出し条項」)について、請求自体についての判断ではありませんが、家賃債務保証業者以外の、通常、借主との間で一定の信頼関係があると考えられる個人の連帯保証人に解除権、明渡の代行及び残置動産の処分権を付与する条項は、個人の連帯保証人の家賃支払債務が過大になるのを防止することを目的としており、当該条項を借主が明確に認識したうえで契約を締結したものであれば、当該条項が信義則に反して借主の利益を一方的に害するものであるということはできず消費者契約法10条に該当しないとの考え方を示した裁判例があります(大阪高裁平成25年10月17日判決)。

また、家賃債務保証業者Aの家賃債務保証契約において、借主が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分に達したときは、Aが無催告で賃貸借契約を解除することができるとした条項につき、3か月分以上の賃料不払いという事実は賃貸者契約と自社の信頼関係を大きく損なう事情であり、無催告の解除が不合理とはならない事情がある場合の借主の不利益の程度はさして大きくなく、無催告解除の要件を満たす場合に貸主ではないAが解除権を行使し得るとしても借主が受ける不利益の程度は限定的であるとし消費者契約法10条に該当しないとした裁判例があります(大阪高裁令和3年3月5日判決)。

同判決において、裁判所は、同契約中の借主が賃料等の支払を2か月以上怠り、Aが合理的手段を尽くしても借主本人と連絡が取れない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない借主の意思が客観的に看取できる事情が存するときには、借主が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物明渡があったものとみなすことができるとし、この場合に本件建物内に残置した動産類を貸主及びAにおいて任意に搬出、保管することに借主は異議を述べないとする条項についても、既に借主の建物に対する占有権が消滅しているものと認められる場合に明渡があったものとみなし、賃貸借契約が継続している場合はこれを終了させる権限を付与する規定であり、残置動産の搬出を許容することで借主は現実の明渡をする債務を免れ、賃料相当損害金等の更なる支払義務を免れるという利益を受けること、借主が異議を述べさえすればAの当該行為を阻止することができることなどから消費者契約法10条に該当しないと判示しています。

3 本件の場合

現に従業員が生活を続けているなど従業員による建物の占有が残っていることが明らかな状況では、当社が賃貸借契約を解除、明渡代行をすることはできないと解されます。

しかし、従業員が建物に戻らず長期間所在不明となっているような場合は、貸主、当社、従業員の間で3か月以上の賃料滞納など貸主による賃貸借契約の債務不履行解除が可能となる状況における賃貸借契約解除権を当社に付与し、従業員が建物を占有する意思を最終的かつ確定的に放棄したと客観的に看取できる事情があるときに任意に建物内の残置動産を搬出する権限を当社に付与するという条項を契約書に加えておけば、当社が賃貸借契約を解除し、従業員の残置物を建物から搬出をすることは許容される余地があると解されます。

福島の進路2022年8月号掲載