質問

当社は、株主総会について、株主が意見表明する機会の確保、株主総会の運営コストの削減などの目的で、書面投票制度と電子投票制度の採用を検討しています。これらの制度を採用するうえでどのような点に注意すべきでしょうか。

 

回答

1 各制度の概要

⑴ 書面投票制度(議決権行使書面による議決権の行使)

書面投票制度とは、株主が株主総会に出席することなく、株主総会の招集通知に添付された議決権行使書面に必要な事項を記載し、これを会社に提出することにより議決権を行使する制度です(会社法311条1項)。

書面投票制度を採用するには、株主総会を招集するにあたり取締役会において株主総会に出席しない株主が書面により議決権を行使することができることの決議(取締役会非設置会社においては取締役の決定)が必要になります(同法298条1項3号、同条4項)。

その決議(決定)を受け会社が株主に対し株主総会招集通知を発するとき、会社は株主総会参考書類及び議決権を行使するための書面(議決権行使書面)を株主に交付しなければなりません(同法301条1項)。株主の承諾を得ることで書面による招集通知の発出に代えて電磁的方法により提供することができ(同法299条3項)、その場合は議決権行使書面の交付に代えて議決権行使書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができます(同法301条2項)。なお、株主総会資料の電子提供制度に関する会社法改正が令和4年9月1日施行され、令和5年3月1日以後に実施される株主総会については電子提供措置を採る旨を定款に定めることで株主の個別の承諾なしに電磁的方法による提供が可能になります。

書面投票の場合、会社が特定の時を行使期限として定める場合を除き、株主は株主総会の日時の直前の営業時間の終了時までに会社に議決権行使書面を提出する必要があります(会社法施行規則69条)。

⑵ 電子投票制度(電磁的方法による議決権の行使)

電子投票制度とは、株主が株主総会に出席することなく、会社の承諾を得て、議決権行使書面に記載すべき事項を、電磁的方法により会社に提供することにより議決権を行使するという制度です(同法312条1項)。

電子投票制度を採用するには、株主総会を招集するにあたり取締役会において株主総会に出席しない株主が電磁的方法により議決権を行使することができることの決議(取締役会非設置会社においては取締役の決定)が必要になります(同法298条1項4号、同条4項)。電子投票制度を採用する場合でも、招集通知は書面でするのが原則ですが(同法299条2項)、株主の承諾を得て電磁的方法により発する場合は議決権行使書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供しなければなりません(同法302条3項)。

株主が電磁的方法により議決権を行使するには会社の承諾を要しますが(同法312条1項)、電磁的方法により招集通知を発することを会社に対し承諾した株主について、会社が正当な理由なく電磁的方法による議決権行使を拒否することはできません(同条2項)。

電子投票の場合、会社が特定の時を行使期限として定める場合を除き、株主は株主総会の日時の直前の営業時間の終了時までに議決権を行使しなければなりません(同規則70条)。

電子投票制度は書面投票制度と同時に採用することができますが、書面投票制度を採用せず電子投票制度のみを採用することもできます。

⑶ 書面投票または電子投票による議決権行使、不行使の効果

株主が議決権行使書面又は電磁的方法による議決権行使をした場合、行使された議決権の数は株主総会に出席した株主の議決権の数に算入します(同法311条2項、312条3項)。

書面投票、電子投票をしなかった株主は、株主総会において議決権を行使することができます。

会社は、株主総会の日から3か月間、行使された議決権行使書面または株主から提供された事項を記録した電磁的記録を本店に備え置く必要があり、株主からそれらの閲覧、謄写の請求があればこれに応じなければなりません(同法311条3項ないし5項、同法312条4項ないし6項)。

2 複数の投票制度を採用するうえでの注意点

複数の投票制度を採用する場合、株主がそれぞれの制度を使って複数回議決権を行使することができてしまうことから、同一の株主が異なる内容で複数回議決権を行使した場合にどれを有効とするかという問題が生じます。

書面投票と電子投票の重複行使については、会社は株主総会を招集するに際し同一の議案に対する議決権の行使の内容が異なるものであるときにおける当該株主の議決権の行使の取扱いに関する事項を定めることができるとされています(同規則63条4項ロ)。常に議決権行使書面での議決権行使を有効なものとすると定めることも、その逆も可能ですし、賛否がない議決権行使とする(議決権数には算入する)取扱いも許されると解されますが、あくまで株主総会招集の段階で取扱いを定めた場合の話であり、事後的に会社に有利になるように取扱いを変更するような恣意的な株主総会の運用は認められません。事前に重複行使があった場合の取扱いについて定めない場合は、議決権の行使は株主の意思表示であることから、より新しい株主の意思を投票結果に反映させるのが妥当であると考えられるため、会社に到達した時点ではなく株主が議決権を行使した時点を基準とし、より後の議決権行使を有効なものと取り扱うべきでしょう。

書面投票も電子投票も株主総会に出席しない株主のための制度であることから(同法298条1項3号、4号)、書面投票または電子投票をした株主が株主総会に出席して議決権を行使した場合、先の書面投票または電子投票は当然に効力を失い、株主総会での議決権行使を有効なものと取り扱うのが正当と解されます。

福島の進路2022年7月号掲載