民法の基本原則イラスト民法は、私たちのくらしの中で生じる物権、債権の財産関係や親族、相続の家族関係について基本ルールを定めています。

民法は、憲法に基づき自由の思想を基本原理とし、その反映として私人の自由意思と財産を尊重するため契約自由の原則、所有権絶対の原則、過失がない限り責任を負わないとする過失責任の原則を採用しています。これらの原則のもとで形式上生じ得る私権と私権との衝突を実質的に調整する規定として、民法1条および2条があります。

民法1条1項は「私権は、公共の福祉に適合しなければならない」とし、私権の内容および行使については、公共の福祉(社会共同生活全体の利益)との調和を保つことが求められています。

民法1条2項は「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」とし、いわゆる信義誠実の原則(信義則)を定めています。

私人間の権利義務に関して互いに相手方の信頼を裏切らないよう誠意をもって行動するよう求めており、権利者が長年にわたり権利を行使しなかったことを理由に権利行使を制限する権利失効の原則、契約当時に比して事情が著しく変化したことを理由に契約の解除を認める事情変更の原則、自らの従前の行為と矛盾する態度をとることを許さない禁反言の法理などは信義則から派生するものです。

信義則は契約の趣旨の解釈においても基準となるもので、契約書に記載がないとしても、信義則に基づき契約に付随する義務として安全配慮義務や説明義務が課される場合があります。

民法1条3項は「権利の濫用は、これを許さない」と定めています。権利者が自らの権利を行使する場合であっても濫用と認められる場合は、法律効果の発生を否定されたり不法行為として権利者が損害賠償責任を負ったりすることにもなります。

民法2条は、「この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない」として、親族、相続関係だけでなく民法全体の解釈の基準を示しています。

民法の冒頭に定めるこれらの基本原則は、私たちの身近な法律問題についても、法律の文言のみに縛られず法の目的に合った適正妥当な結論を導くための手がかりとなるものです。

「くらしの法律」は平成21年4月の開始から今回で150回となりました。150回を区切りとして連載を終了させていただきます。長年にわたりお読みいただきありがとうございました。

令和3年12月22日福島民報掲載