質問

当社は、当社のパンフレットを作成し、インターネット上の当社のウェブサイトに掲載していました。パンフレットを作成するにあたり無料で利用できるイラストをインターネットで検索し、検索結果で得られたイラストを利用しました。
先日、利用したイラストについて作成者だというAからイラストの無償利用を許諾していないとしてイラスト利用料の支払いを求める通知書が届きました。当社はイラスト利用料を支払わなければならないのでしょうか。

回答

1 著作権の内容

著作権は著作財産権と著作者人格権に分けられます。著作財産権は著作権者の財産的利益を保護する権利であり、具体的には、複製権、譲渡権、貸与権、上演権、演奏権、上映権といった権利の総称です。著作者人格権は著作者の人格的・精神的利益を保護する権利であり、公表権、氏名表示権、同一性保持権の総称です。以下、著作権とあるのはとくにことわりがない限り著作財産権のことです。

著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものであり、事実の伝達にすぎない雑報および時事の報道は著作物には当たりません。

著作者とは、著作物を創作する者であり、著作権は著作物の創作の時に始まります(著作権法51条1項)。著作者は創作することで著作物につき著作権を取得しますが、著作権は譲渡することが可能であるため、著作者が著作権者であるとは限りません。

私的使用のための複製(同法30条)など著作権法が許容する利用態様の場合を除き、著作者の許諾のない著作物の利用は著作権侵害になり、著作権者は著作権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止または予防を請求することができます(同法112条1項)。また、著作権者は著作権を侵害した者に対し侵害行為によって生じた損害につき不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます(民法709条)。この場合、著作権、出版権または著作隣接権の行使につきうけるべき金銭の額に相当する額(著作物を利用する場合に代金として支払っていたはずの金額)を損害額として損害賠償請求することができます(著作権法114条3項)。

2 インターネット上の「フリー素材」の問題

インターネット上には無償利用できるイラストや写真などの著作物(フリー素材)がアップロードされており、「無料」「フリー」などの単語を検索条件に加えてフリー素材を探すことがあります。その検索結果の著作物には無償利用できる著作物だけでなく有償利用の著作物も含まれることがあるので、利用しようとしている著作物が有償か無償か、検索結果からその著作物のアップロード元のウェブサイトに飛んで確認する必要があります。

ここで注意しなければならないのは、検索結果から飛んだアップロード元のウェブサイトにおいて無償で利用可能な旨の記載があっても、必ずしも真の著作権者が許諾をしているとは限らないということです。すなわち、真の権利者が利用を許諾していないのに、第三者が真の権利者に無断で勝手に著作物を転用していることがあり、このような無権利者から孫引きで著作物を利用した場合であっても著作権侵害になります。

原告が著作権を有する写真を被告が自らのウェブサイトに掲載した行為について、著作権侵害を理由に原告が被告に損害賠償を求めた事案において、被告が当該写真はフリーサイトから入手したものだと主張したのに対し、ウェブサイト作成業務を担当した被告従業員の経歴および立場に照らせば掲載行為によって著作権等の侵害を惹起する可能性があることをその従業員は認識していたものと推認するのが相当であって、仮にフリーサイトから入手したものだとしても、著作者についての識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきことは、著作権等を侵害する可能性がある以上当然であると判示し、著作権侵害による損害賠償請求を認めた裁判例があります(東京地裁平成27年4月15日判決)。

また、無償利用できる著作物であっても、利用に際して著作物の改変を禁じるなどの利用条件が付いていることがあります。利用条件に反した利用をすると著作者人格権の侵害になり損害賠償責任(慰謝料)が生じます。

著作物を利用する際は、識別情報、権利関係をよく確認する必要があります。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(https://creativecommons.jp)という利用条件を示したライセンスマークを著作権者が著作物に表示することにより、利用者がその著作物をどのように利用できるか一目で分かるようになる制度があり、このような制度が普及することで著作物の権利関係の確認が容易になるものと期待されます。

3 本件の場合

イラストはイラストレーターの思想、感情が表現されるものであり創作性が認められるのが一般的であり、当社が利用したイラストも著作物に当たります。

当社は無料で利用できるイラストをインターネットで検索し検索結果からイラストを利用したとのことですが、Aから通知が来たところから見ればAは当該イラストの無償利用を許諾していなかったものと解され、当社がAのイラストを利用したパンフレットをウェブサイトに掲載した行為は、Aの著作権侵害に当たります。

当社はアップロード元のウェブサイトで当該イラストの識別情報、権利関係を確認すべきであったとされ、この点に過失が認められる可能性が高いと考えられます。

当社の過失が認められる場合、当社は著作権法114条3項に基づきAが規定しているイラストの利用料を損害額としてAに賠償する必要があります。ただし、Aが規定している利用料が相場と比べて不当に高額である場合、支払額を相当額に減額する余地はあるものと解されます。

福島の進路2021年11月号掲載