質問

当社は新たに社外取締役を置くことを検討していますが、取締役の賠償責任軽減について令和3年3月施行の改正会社法で動きがあったと聞きました。取締役の賠償責任軽減の制度としてどのようなものがあるのでしょうか。

回答

1 取締役の賠償責任

取締役は会社との関係では、その任務を怠ったことにより会社に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。また、第三者との関係では、取締役がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときはこれにより第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(同法429条1項)。

2 会社に対する賠償責任の軽減

⑴全部免除

取締役の会社に対する賠償責任は総株主の同意がなければ免除することができません(同法424条)。ここでいう総株主は議決権を持たない株主を含めた全株主であると解されています。

⑵一部免除

会社法は、取締役が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から最低責任限度額(代表取締役は6年分、業務執行取締役は4年分、それら以外の取締役は2年分の報酬額と新株予約権で得た利益の合計額)を控除した額を限度として賠償責任の一部を免除する3つのパターンを規定しています。

一つ目は、取締役の会社に対する賠償責任を一部免除する旨の株主総会の特別決議を得る方法です(同法425条、309条2項8号)。監査役、監査委員、監査等委員(以下、監査役等といいます)がいる会社では、取締役の責任免除の議案を株主総会に提出するには、監査役等の同意を得なければなりません。取締役は株主総会において、責任原因事実、賠償責任額、責任免除可能額とその算定根拠、責任免除すべき理由、免除額について開示しなければなりません。

二つ目は、取締役2名以上の監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社において、責任の原因となった事実の内容、取締役の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、責任を負うべき取締役を除いた取締役の過半数の同意(取締役会設置会社においては取締役会決議)によって一部免除することができる旨を定款で定め、責任の原因となった事実が発生したときに取締役の過半数の同意または取締役会の決議を得る方法です(同法426条)。定款に当該規定を設ける議案を株主総会に提出するとき、定款の定めに基づく責任免除の同意を取締役から得るとき、責任免除の議案を取締役会に提出するときは、監査役等の同意を得なければなりません。取締役の同意または取締役会の決議の後、取締役は遅滞なく株主に責任免除に関する事項、責任免除に異議があるときは一定期間内に異議を述べるよう通知しなければなりません。

三つ目は、業務の執行に関与しない取締役(非業務執行取締役)に限られますが、あらかじめ会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を賠償責任の限度とする旨の契約(責任限定契約)を締結することができる旨を定款で定め、会社と非業務執行取締役が責任限定契約を締結する方法です(同法427条)。定款に当該規定を設ける議案を株主総会に提出するときは監査役等の同意を得なければなりません。責任限定契約をした会社が非業務執行取締役の任務懈怠により会社が損害を受けたことを知ったときは、その後最初の株主総会において責任原因事実、賠償責任額、責任免除可能額とその算定根拠、責任限定契約の内容および契約締結理由、免除額を開示しなければなりません。

3 第三者に対する賠償責任軽減

⑴ 補償契約

補償契約は、会社が取締役に対して、①その職務の執行に関し法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する弁護士費用や調査費用などのいわゆる防御費用と、②取締役がその職務の執行に関し第三者に生じた損害を賠償する責任を負うときの賠償金支払いによる損失または紛争当事者間で和解が成立したときの和解金支払いによる損失の全部または一部を補償する契約であり、今回の会社法改正により設けられた制度です(同法430条の2)。

①については、取締役の職務施行につき悪意重過失でも対象となりますが、通常要する費用を超える部分は補償対象になりません。取締役の職務執行に図利加害目的があったときは、会社は取締役に対し補償した額の返還請求をすることができます。②については、取締役が職務執行につき悪意重大過失であった場合は補償されません。会社が第三者に対し賠償した場合に会社が取締役に対し求償できる部分についても補償対象になりません。

 補償契約の内容を決定するには、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議を要し、取締役会設置会社では補償をした取締役と補償を受けた取締役は、遅滞なく補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。

⑵ 役員等賠償責任保険

会社は、取締役がその職務の執行に関し責任を負うことまたは当該責任の追及にかかる請求を受けることによって生ずることのある損害について、取締役を被保険者として填補を受ける保険契約(役員等賠償責任保険契約)を締結することができます。この保険は従前から上場会社を中心に普及していましたが、利益相反やモラルハザードの問題が指摘されていました。今回の会社法改正で締結可能であることを明文化し、保険の適用範囲や保険契約締結の要件等について規定しました(同法430条の3)。填補の対象となるのは、前述の防御費用のほか、賠償金、和解金などです。

この保険契約の内容の決定をするには、取締役会非設置会社においては株主総会の決議を、取締役会設置会社においては取締役会の決議を要します。これらの決議があれば、会社が株主代表訴訟担保特約の保険料を負担することもできると解されます。

福島の進路2021年8月号掲載