質問

当社は電気機器の販売会社です。当社は個人事業主Aに対し売買代金請求訴訟を提起し勝訴判決を得ました。その後もAは判決で認められた売買代金を支払わないのでAに対する強制執行を考えていますが、Aにどのような財産があるか不明です。Aの財産を調べるにはどのような方法があるでしょうか。

回答

1 財産調査の必要性

金銭の支払いを求める訴訟で勝訴判決を得ても債務者が判決に従わない場合、取立てをするには強制執行という裁判所の手続によることになります。

強制執行の申立ては執行の対象となる債務者の財産を特定してしなければなりません。債権者が債務者の勤務先、持ち家の所在や預金口座の詳細を把握していれば財産の特定も困難ではありませんが、一般的には分からないことの方が多いでしょうし、債務者がどのような財産を持っているか分からないことも多いでしょう。強制執行の準備として債務者の財産の調査が必要になりますが、裁判所を利用した債務者の財産の調査方法として財産開示手続及び第三者からの情報取得手続があります。

2 財産開示手続

財産幹事手続は債務者本人に財産の情報を回答してもらう制度です。

債権者として通常行うべき調査を行い見るべき財産が見当たらない場合または調査の結果判明した財産に対して強制執行等を実施しても債権者が金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき、執行力ある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、裁判所は債務者について財産開示手続を実施する旨の決定をします(民事執行法197条1項2号)。

債務名義とされるのは、裁判所の判決、和解調書、調停調書、仮執行宣言付きの支払督促、強制執行認諾約款付き公正証書です。

実施決定が確定すると、裁判所は財産開示期日を指定して債権者である申立人と債務者(債務者に法定代理人がある場合はその法定代理人、法人である場合はその代表者)を裁判所に呼び出します(同法198条)。債務者は財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産について強制執行するのに必要となる事項のほか申立人に開示する必要がある事項を明示して陳述しなければなりません。

債務者は財産開示期日において、必ずしも自己の有する全ての財産について陳述しなければならないわけではなく、申立人の同意を得るか、債務名義の対象となっている金銭債権の完全な弁済に支障がなくなったことが明らかである場合において裁判所の許可を受けたときは、その余の財産について陳述することを要しません(同法200条1項)。

令和2年4月施行された改正民事執行法は、それまで債務者が財産開示期日に正当な理由なく裁判所に出頭しなかったり、陳述についての宣誓を拒んだとき、宣誓したのに正当な理由なく陳述すべき事項について陳述しなかったり虚偽の陳述をしたときの罰則を「30万円以下の過料」としていたのを、「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」としてより重い刑罰を課することとしました(同法213条1項5号、6号)。令和2年10月には神奈川県で、令和3年2月には広島県で、財産開示期日に出頭しなかった債務者が民事執行法違反の疑いで送検される事例があり、罰則が債務者に対する心理的圧力となって財産開示制度が実効性のあるものになることが期待されます。

3 第三者からの情報取得手続

第三者からの情報取得手続は改正民事執行法において新たに設けられた制度で、債務者本人ではなく第三者から債務者の財産について情報を提供してもらう制度です。

財産開示手続と同様に完全な弁済を得られないことの疎明があったとき、執行力ある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、裁判所は第三者に対し債務者の財産について書面による情報提供を命じ、裁判所は申立人に第三者から提出された書面の写しを送付し、債務者にも情報が提供された旨を通知します(同法208条)。裁判所が提供を命じる情報は、債務者の不動産にかかる情報、債務者の給与債権にかかる情報、債務者の預貯金債権等にかかる情報です。

⑴債務者の不動産にかかる情報(同法205条)

債権者は財産開示手続を経たうえで財産開示期日から3年以内に情報取得の申立てをし、申立てを受けた裁判所は登記所に対し債務者が所有の登記名義人である土地又は建物その他これらに準ずるものに対する強制執行の申立てをするのに必要となる事項について情報の提供をすべき旨を命じます。不動産にかかる情報取得手続は令和3年5月16日までに運用開始するものとされています。

⑵債務者の給与債権にかかる情報(同法206条)

債権者は財産開示手続を経たうえで財産開示期日から3年以内に情報取得の申立てをし、申立てを受けた裁判所は市町村、日本年金機構公務員共済組合等に対し債務者が支払いを受ける給与や報酬などの債権に対する強制執行の申立てをするのに必要となる事項について情報(債務者に給与の支払いをする者の存否、存在する場合はその名称、その住所など)の提供をすべき旨を命じます。給与債権にかかる情報は秘匿性が高いことから、この情報取得手続は請求債権が夫婦間の協力扶助義務や婚姻費用分担義務、子の監護義務等にかかる定期金の請求権(同法151条の2)であるか人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権である場合にのみ申立てができるとされており、本件のように売買代金債権を請求債権とする場合は利用できません。

⑶債務者の預貯金債権等にかかる情報(同法207条)

債権者は財産開示手続を経ずに情報取得の申立てをし、申立てを受けた裁判所は銀行、信金、農協、証券会社等に対し強制執行の申立てをするのに必要となる事項について情報(預貯金等債権の存否、存在する場合はその取扱店、預貯金等の種別、口座番号および額など)の提供をすべき旨を命じます。情報提供を求める先の金融機関は申立人が選定しますが、複数の金融機関を対象とすることができます。

福島の進路2021年3月号掲載