弁済供託イラスト債務者が債権者に弁済の提供をしようとしても、債権者の事情でそれがかなわない場合があります。民法は債務者が約定に従って弁済の提供をしても債権者に受領してもらえない場合に備え、債務者が弁済の目的物を供託所に寄託して債務を消滅させる「供託」という制度を設けています(民法494条)。

たとえば、毎月賃料を持参して支払う借家契約で借主から貸主と連絡がとれなくなったり、賃料の額で争いが生じ貸主が賃料を受け取ってくれなかったりなど借主が賃料を支払おうとしても支払いができないとき、借主は賃料相当額を法務局、地方法務局、支局、法務大臣が指定する出張所に供託することにより、賃料を弁済したことになり債務が消滅します。

民法は供託原因として受領拒絶、受領不能、債権者不確知を挙げています(同494条)。受領拒絶とは、債権者が弁済の受領を拒否する意思を表明している場合です。受領不能とは、持参債務につき債権者が不在や行方不明である、取立債務につき交通途絶などの理由で債権者が取立てに来ない、債権者が未成年で受領能力がないなど債権者に受領できない事情がある場合です。債権者不確知とは、債権者が死亡しその相続人が誰か不明であったり、債権の帰属に争いがあって複数人から支払いを求められた場合のように債務者が債権者を知ることができない場合です。

債務者は供託書を作成し債務の履行地(特に定めがない場合は、債権者の住所地)を管轄する供託所に提出し、弁済の目的物を寄託します。これとともに供託者(債務者)は遅滞なく債権者に供託したことを通知しなければなりません(同495条)。

供託がされると、債権者は供託所に供託物の還付を請求することができるようになりますが、債権者から債務者に対する反対給付の義務がある場合、債権者はその反対給付をしなければ供託物を受け取ることができません(同498条)。例えば買主が売買代金を供託したのに対し売主が売買目的物の引渡しをしていないような場合には、売主が供託された売買代金を受領するには買主に売買目的物を引き渡さなければなりません。

債務者は債権者が供託を受諾せず、または供託を有効と宣告した判決が確定しない間は供託物を取り戻すことができますが、取り戻すと供託しなかったものとみなされ債務が復活します(同496条)。

令和3年2月24日福島民報掲載