No.112 成年被後見人とされる患者の診療

質問

成年被後見人とされる患者を診療したり、入院を受け入れたりするとき、成年後見人はどのような役割を担うのでしょうか。

回答

1 成年後見制度について

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な人は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、これらの行為を自らの判断ですることが困難であることが多く、そのような成年の方を支援するための制度として成年後見制度があります。

成年後見制度は大きく法定後見制度と任意後見制度の2つに分かれます。

法定後見制度である成年後見人は、民法の規定に基づき申立により家庭裁判所が選任するもので(民法7条、843条)、本人の利益を考えながら財産を管理し、本人を代理して法律行為を行う権限を有しています(同法859条)。

任意後見制度は本人が後見人を選ぶことができる制度です。本人が判断能力を有しているうちに将来自分の断能力が低下したときに自分に代わって財産管理し、法律行為を行うよう信頼できる人に委任する契約(任意後見契約)をしておくというものです(任意後見契約に関する法律2条1号)。本人の判断能力が低下すると家庭裁判所は申立により任意後見監督人を選任することとされ(同法4条1項)、受任者(任意後見人)は任意後見監督人が選任されてから契約で定められた仕事を開始します(同法2条4号)。任意後見人は、委任を受けた範囲で本人を代理して法律行為を行う権限を有しています。

被後見人である患者が病院を利用する場合は、成年後見人、任意後見人が代理して契約を締結することになります。

2 診療時、入院時の成年後見人の役割

成年被後見人とされる患者が医療機関で診療を受けたり、入院したりするときに問題となる代表的な場面として、⑴診療費、入院費、保証費の支払い、⑵入院計画書への同意などの医療同意、⑶緊急連絡、緊急時の対応、⑷入院中本人が必要とする物品の準備、⑸転院、退院時の手配、支援、⑹死亡時の遺体・遺品の引き取り、葬儀に関する準備などが挙げられます。それぞれの場面において成年後見人に就いている弁護士にどのような役割が期待できるかを検討します。

⑴診療費、入院費の支払い及びそれらの債務の保証

成年被後見人の入院費の支払は成年後見人の財産管理の職務に含まれます。

成年後見人は、成年被後見人の債務について連帯債務者や保証人になることは想定されていません。成年後見人が本人の財産を適切に管理することによって入院費等の支払いを遅滞なく行うことから、不払いの懸念はないと考えられます。

本人の入院費等を支払うことができないような事態に陥りそうなときは、成年後見人が成年被後見人について生活保護の利用など対処することになります。

⑵入院計画書への同意などの医療同意

医療行為に対する同意は成年被後見人本人のみが行うことができる一身専属の権限であり、法定代理人とされる成年後見人であっても同意の権限はありません。

本人が医療にかかる意思決定が困難な場合については、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂 厚生労働省)の考え方を踏まえ、本人の意思決定の支援し、本人の意思を推定し、本人の意思が推定出来ないときは最善の医療の決定プロセスにより対処するというのが、厚生労働省が公表している「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(平成30年度厚生労働行政推進調査事業費補助金「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」班作成)にも示されているところです。

成年後見人は、本人が意思決定しやすいよう、医療についての説明の場に同席し、分かりやすい言葉で本人に伝えるなど本人の理解を支援することや、本人の意思を推定するために、情報を収集したり、本人の意思の推定のためのカンファレンスに参加したりするといった役割を担うことが考えられます。

⑶緊急連絡、緊急時の対応

弁護士など専門職が成年後見人に就いている場合、成年後見人自身は緊急連絡に即時に対応することが困難な場合もあります。緊急時に備えて、本人に親族、親しい知人等があればその人に緊急連絡先になってもらい、成年後見人から緊急時の対応を頼んでおくことが考えられます。緊急時対応をお願いできる親族、親しい知人がいない場合、成年被後見人が従前、日常生活自律支援事業、身元保証団体、介護・障害福祉サービスを利用していたようであれば、成年後見人はその担当者と対応をどのようにするか相談することが考えられます。

⑷入院中本人が必要とする物品の準備

本人の入院に際し病衣やタオル、洗面用具等を準備する必要がありますが、その事実行為自体は成年後見人の職務にはなりません。しかし、それらの購入やレンタルといった有償契約の締結は法律行為であり成年後見人の職務に含まれるので、成年後見人が本人のために準備することができると考えられます。

⑸転院、退院時の手配、支援

成年後見人は成年被後見人が施設に入所したり、住居を賃借したりする際に本人を代理して契約を締結し、本人の生活基盤を確保するための身上監護の事務を行う権限を有しています。本人の転院・退院対応についても身上監護の事務の一環として成年後見人が対応することができると考えられます。

⑹死亡時の遺体・遺品の引き取り、葬儀に関する準備

遺体・遺品の引取りについても、成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合、死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為をすることができることから(民法873条の2)、十分対処可能です。現実に、身寄りのない成年被後見人については成年後見人が遺体保管の手配をして火葬等の対処をしているようです。

3 判断能力に疑いがあるが成年後見人がついていない患者を受け入れる場合

成年後見制度を利用していない判断能力に疑いのある患者については、患者に親族がいるときは親族と連携をとり、親族がいないときは市町村役場、社会福祉協議会等と連携をとり、必要に応じ成年後見制度の利用を本人に促すことを検討すべきでしょう。

福島県病院協会会報2021年1月号掲載