質問

昨年(令和2年)10月に同一労働同一賃金に関する最高裁の判決が立て続けに出たという報道を見ました。無期契約労働者と有期契約労働者の給与条件について最高裁はどのような判断を示したのでしょうか。

回答

1 均衡待遇

短時間労働者及び有期契約労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム有期雇用労働法)8条は、事業主が、その雇用する短時間・有期契約労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇等の間において、当該短時間・有期契約労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとしており、職務の内容にかかわらず不合理な差を認めないとする一方、職務の内容が同一であってもその他の事情を考慮して合理的な差を設けることを許容する均衡待遇を規定しています。

2 同一労働同一賃金に関する令和2年10月の最高裁判決

5件の判決がなされましたが、いずれもパートタイム有期雇用労働法8条の前身である労働契約法旧20条が適用された事案です。

⑴大阪医科薬科大学事件

最高裁は、大学が支給する無期契約労働者に対する賞与は、基本給とは別に支給される一時金として、財務状況等を踏まえつつ、その都度支給の有無や支給基準が決定されるものであり、労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものとして、無期契約労働者としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図る目的から支給することとされたものであるとし、無期契約労働者と同事務を担当する有期契約労働者にこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法旧20条にいう不合理とは認められないとしました。

また、私傷病による欠勤中の賃金の支給は、職員の雇用を維持し確保することを目的とするものであり、有期契約労働者にこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法旧20条にいう不合理とは認められないとしました。

⑵メトロコマース事件

最高裁は、売店を経営する会社が退職する無期契約労働者に対し一時金として支給する退職金は、退職金規定によりその支給対象者の範囲や支給基準、方法等を定めていたところ、退職金は無期契約労働者の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有し、無期契約労働者としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図る目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される無期契約労働者に対し支給することとされたものであるとし、無期契約労働者と同業務に従事する有期契約労働者にこれを支給しないという労働条件の相違は労働契約法旧20条にいう不合理とは認められないとしました。

⑶日本郵便(佐賀)事件

最高裁は、夏期休暇及び冬期休暇が与えられているのは年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的によるとし、無期契約労働者と有期契約労働者の間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があることを考慮しても、有期契約労働者に夏期休暇及び冬期休暇を付与しないという労働条件の相違は、労働契約法旧20条にいう不合理と認められるとしました。

⑷日本郵便(東京)事件

最高裁は、私傷病による病気休暇として有給休暇が与えられているのは、私傷病の療養に専念させることを通じて、継続的な雇用を確保するという目的によるとし、無期契約労働者と有期契約労働者の間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があることを考慮しても、有期契約労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えないという労働条件の相違は、労働契約法旧20条にいう不合理と認められるとしました。

⑸日本郵便(大阪)事件

最高裁は、年末年始勤務手当は多くの労働者が休日として過ごす12月29日から翌年1月3日までの郵便業務の最繁忙期に同業務に従事したことにつき、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有し、年始期間の祝日給は、三が日は多くの労働者にとって休日とされている慣行に沿って休暇を与えるという目的で特別休暇が与えられることとされているにも関わらず当該期間に勤務したことの代償として賃金の割増をするものであり、扶養手当は生活保障や福利厚生を図り扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて継続的な雇用を確保する目的によるとし、無期契約労働者と有期契約労働者の間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があることを考慮しても、有期契約労働者に年末年始勤務手当、年始期間の祝日休及び扶養手当を与えないないという労働条件の相違は、労働契約法旧20条にいう不合理と認められるとしました。

3 判旨についての考察

以上の判決の結論を一覧すると、最高裁は、一般的に職務の内容によって額が決まる賞与、退職金についての待遇差は職務の内容が違えば不合理でないと判断し、職務内容に関係なく福利厚生的、恩恵的な手当、有給休暇についての待遇差は不合理であると判断したとも受け止められそうですが、賞与、退職金のいずれについても支給される金員の性質やこれを支給する目的を踏まえて諸事情を考慮することにより、その待遇差が不合理となることがあると明言しており、個別事情を踏まえたうえで、当該事件においては賞与、退職金の待遇差が不合理なものではないと判断したものであると理解すべきです。

最高裁が、職務の内容を比較検討するのに、無期契約労働者全体ではなく、同様の業務に従事していた無期契約労働者に限定して当該有期契約労働者と比較した点は、労働者側に有利な判断であると言えますが、大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件のように、組織再編や人員配置の見直しといった会社側の主観的な都合をも待遇差を不合理としない事情として考慮した点は、会社側に有利な判断であると言うことができるでしょう。

福島の進路2021年2月号掲載