質問
交通事故による損害の賠償方法に定期金賠償というものがあると聞きましたが、どのような賠償なのでしょうか。
回答
1 定期金賠償と一時金賠償
定期金賠償とは、年1回、月1回など定期的に継続して賠償金を支払う方法です。これに対し一回で賠償金を支払う方法を一時金賠償と呼びます。
不法行為にもとづく損害賠償は一時金賠償によるのが原則とされていますが、法律は定期金による賠償も想定しています(民事訴訟法117条)。
交通事故による後遺障害の損害賠償として、将来の介護費や逸失利益の定期金賠償が長期にわたる場合、賠償継続中に事故と因果関係のない原因により被害者が死亡することが考えられ、そのような場合に事故当時想定された被害者の将来の介護費や逸失利益などの損害について被害者死亡の時点で賠償を打ち切ってよいかが問題となります。
2 将来の介護費の定期金賠償
将来の介護費を定期金により賠償する場合、被害者死亡によりその後の介護は不要になるので、加害者が介護費の支払いを止めたとしても被害者およびその遺族が不測の損害を被るものではなく、これにより加害者が不当に利得するものでもありません。逆に死亡後も介護費の支払いを継続するとすれば、被害者側に根拠のない利得を与えることにもなり衡平の理念に反すると考えられます。
民事訴訟法は、口頭弁論終結後に損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、損害につき定期金賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えを提起することができるとしているので(民事訴訟法117条1項)、被害者が死亡した場合、加害者は民事訴訟法117条1項の判決の変更の訴えにより介護費の定期金賠償を打ち切るよう求めることができるものと解されます。
3 逸失利益の定期金賠償
逸失利益の定期金賠償は、被害者が就労可能年齢までに得たであろう所得や平均余命までに得られたであろう年金など将来の利益を償うものであり、被害者が事故後に事故と因果関係のない原因で想定の年齢よりも早く死亡した場合、被害者の死亡時を賠償の終期とすると、一時金賠償の場合と比較して被害者側に不測の損害を与えることになるとともに加害者に不当な利得を与える結果になるので、被害者の死亡時を賠償の終期とすることは当然にはできないと考えられます。
4 逸失利益の定期金賠償に関する最高裁判決
最高裁令和2年7月9日判決は最高裁が逸失利益について定期金賠償の方法を認めた初の裁判例ですが、逸失利益の賠償期間の終期について判断を示しています。
Yはトラックを運転中に道路を横断中のX(事故当時4歳)に衝突する事故を起こし、Xには高次脳機能障害の後遺障害が残り労働能力を全部喪失しました。Xとその両親はYに対して不法行為に基づき、車両保有者のZに対して自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任に基づき損害賠償を求めたという事案です。
XらはXの就労可能期間の始期である18歳になる月の翌月からその終期である67歳になる月までの間に取得すべき収入額を、その間の各月に、定期金により支払うことを求めました。
1審の札幌地裁、2審の札幌高裁ともにXの過失を2割と認定し過失相殺したうえで後遺障害の逸失利益について定期金賠償の方法によることを認めましたが、Y、Zは①定期金賠償は賠償をすべき期間が被害者の死亡により終了する性質の債権(将来の介護費など)についてのみ認められるべきである、②上記就労可能期間の終期により前に被害者が死亡した場合の賠償の終期は被害者の死亡時とすべきであるとして上告しました。
最高裁は、①について後遺障害による逸失利益は不法行為時から相当な時間が経過した後に逐次現実化するものであり、将来その額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じ、算定した損害の額と現実化した損害の額との間におおきな乖離が生ずることもあり得るが、民法は不法行為に基づく損害賠償の方法につき一時金による賠償によらなければならないとは定めておらず、民事訴訟法117条により事後的に乖離を是正し現実化した損害の額に対応させるのが公平に適うと解されるとし、事故賠償の目的は被害者が被った不利益状態を回復させることにあり、その理念は損害の公平な分担にあるところ、その目的および理念に照らして相当と認められるときは後遺障害による逸失利益は定期金賠償の対象となるとしました。
また、②について、一時金賠償の場合に逸失利益の額を算定するに当たり、その後被害者が死亡したとしても、交通事故の時点でその死亡の原因となる具体的事由が存在し近い将来における死亡が具体的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、同死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではないと解されているところ、定期金賠償も一時金賠償と同一の損害を対象とするものであるから、近い将来における死亡が具体的に予測されていたなどの特段の事情がないのに交通事故の被害者が事故後に死亡したことにより賠償義務を負担する者がその義務の全部または一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の補填を受けることができなくなることは衡平の理念に反するから、定期金賠償の場合も、就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したからといって特段の事情がない限り就労可能期間の終期が被害者の死亡時に繰り上がるものではなく、被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることは要しないとしました。
以上のように、最高裁は交通事故により後遺障害が残り労働能力を喪失した被害者は、仮に就労可能期間中に死亡したとしても当初算定した就労可能期間の終期までの逸失利益につき定期金により賠償を受けることができるとの判断を示しました。
福島の進路2021年1月号掲載