養育費の取り立てイラスト夫婦が離婚するとき、夫婦の間に未成年の子がある場合、その子が経済的、社会的に自立するまでに要する衣食住、教育、医療等に関する費用(養育費)の支払について取り決めることになります。まずは夫婦間で協議し、話がまとまれば後日のため内容を強制執行認諾約款付きの公正証書にしておく方法があります。協議がまとまらない場合は家庭裁判所の調停や審判の手続で決めることになります。

元配偶者が離婚後に約束どおりの養育費を支払わないときに、強制執行手続により養育費を取り立てるには、差押えの根拠となる債務名義が必要ですが、養育費支払いを定める強制執行認諾約款付き公正証書、調停調書、審判書、和解調書や判決書が債務名義になります。

差押えの対象としては、預貯金や給与が多いでしょう。預貯金であれば金融機関とその取扱店、預貯金の種別、口座番号等を、給与であれば勤務先の名称や住所等を具体的に特定して差押えを申し立てなければなりませんが、元配偶者が知れていない口座に預貯金を移したり、勤務先を変えたりして強制執行を免れようとすることがあります。その場合、元配偶者の財産を調査する裁判所の手続として、元配偶者本人から情報を得る財産開示手続と令和2年4月施行の民事執行法改正により設けられた「第三者からの情報取得手続」があります。

財産開示手続は元配偶者本人に自分の財産について陳述させるものであり実効性に乏しいと受けとめられがちですが、第三者からの情報取得手続を利用すれば、養育費取り立てのための差押えの前提として、裁判所を通して、預貯金については金融機関から元配偶者の預貯金債権の存否、存在するときはその取扱店、預貯金債権の種別、口座番号および額の情報を得ることができ(民事執行法207条)、給与については市町村、厚生年金実施機関等から元配偶者に給与の支払をする者の存否、存在する時はその名称、住所等の情報を得ることができます。ただし、勤務先についての情報を取得するには財産開示手続を先行することが必要です(同206条)。

この民事執行法改正により、元配偶者の預貯金や給与の捕捉が可能になり養育費の強制執行がしやすくなることに加えて、第三者からの情報取得手続のあることが元配偶者に対する心理的圧力となり、養育費不払い事案の減少に繋がることが期待されます。

令和2年9月23日福島民報掲載