質問

現在、当社は定年を65歳としており、定年退職後68歳になるまでは健康状態など就業上に支障がない限り従業員から再雇用の申し入れがあれば1年毎の有期雇用契約を締結し再雇用することが慣行となっています。当社は業績不振のために人員整理の必要があり、今後は再雇用する人数を減らすことを考えていますが、法的に問題はないでしょうか。

回答

1 定年制度と再雇用

現在、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)により、定年は60歳を下回ることが許されず(高年齢者雇用安定法8条)、事業主は労働者の65歳までの雇用を確保することを義務付けられています。同法は、高齢者の雇用を確保する方法として、定年年齢を65歳まで引き上げるか、65歳までの継続雇用制度(60歳の定年後再雇用するか、退職させずに勤務期間を延長する)を導入するか、定年制を廃止するかのいずれかの措置を講じなければならないとしています(同法9条)。一般的には有期雇用契約による再雇用とする方法が多く見受けられます。なお、令和3年(2021年)4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、事業主は労働者の65歳から70歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならないとされています(改正高齢者雇用安定法第10条の2)。

2 再雇用拒否・契約更新拒否と労働契約法

労働契約法16条は、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とするとしています。これは判例で確立していた「解雇権濫用法理」を法定したものです。

この法理の趣旨は有期労働契約の更新の場面においても妥当するものであり、労働契約法19条は、有期労働契約が過去に反復更新されたことがあり契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められる場合、または有期労働契約の労働者において契約期間満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、その労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合であって、使用者が当該申込を拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすとして契約更新拒否(雇止め)に制約を設けています。

再雇用においても雇止めについては労働契約法19条の適用があります。定年後初めて有期雇用契約を締結する場面では19条を直接適用することはできないので、その類推適用または解雇権濫用法理により契約を拒否することが許容されるか検討することになります。

3 近時の裁判例

参考となる近時の裁判例を紹介します。

65歳を定年とし75歳まで有期雇用契約による再雇用の実績があるタクシー会社乙の従業員である甲ら(雇止めされた者と、定年後初の再雇用契約締結を拒否された者とが含まれる)が、乙が定年後再雇用契約を締結せず、または雇止めをしたことにつき、客観的合理的理由が存在せず無効であるなどとして、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案です。

裁判所は、甲らのうち既に乙と1度以上の有期雇用契約を締結した者については、勤怠、健康状態等に問題がない限り75歳まで契約更新が可能となる限度において有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的理由があるとし、雇止めの時点で75歳未満の者については労働契約法19条に基づき従前と同一の条件で有期雇用契約が更新されたとみなしましたが、雇止めの時点で75歳以上であった者については合理的期待が認められないとして契約の更新を認めませんでした。

定年後初の有期雇用契約締結を拒否された者については、労働契約法19条を類推適用することはできないが、無期雇用契約が定年により終了した場合であっても、労働者からの申込みがあれば、それに応じて有期雇用契約を締結することが就業規則等で明定され、または確立した慣行となっていて、かつ、その場合の契約内容が特定されている場合には、労働者において雇用契約の定年による終了後も有期雇用契約により雇用が継続されるものと期待することに合理的な理由があるとして使用者が有期雇用契約を締結しない行為が権利濫用に該当し、その場合に労働契約法19条、解雇権濫用法理の趣旨ないし信義則に照らして、無期雇用契約が定年により終了した後は前記の特定された契約内容による有期雇用契約が成立すると見る余地はあるとしつつも、本件ではその様な慣行があったとまでは認め難く、成立するとみなされる契約内容が特定できないとして有期雇用契約の成立を否定しました(東京高裁平成31年2月13日判決)。

4 本件の場合

当社は定年を65歳としているので、高年齢者雇用安定法により定年後の再雇用について有期雇用契約締結による再雇用、契約更新について合理的な期待が生じるものではありませんが、68歳になるまでは健康状態など就業上に支障があるといえる事情がない限り1年の有期雇用契約を締結し再雇用することが慣行となっていることから、従業員からすれば継続雇用につき合理的期待があるといえるでしょう。

当社は業績不振を理由に再雇用を拒否ないし雇止めをしようとしているのですから、人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、解雇手続の妥当性等を十分に検討することが必要です。

福島の進路2020年9月号掲載