私は昭和63年3月、人権擁護委員の委嘱を受け、以来人権擁護委員として活動しています。

人権擁護委員法第2条に、「人権擁護委員は、(中略)常に自由人権思想のび普及高揚に努めることをもってその使命とする。」とあり、活動目標の中に「人権啓発」ということが挙げられます。

広辞苑によれば、「啓発」とは「知識をひらきおこし、理解を深めること」と説かれていますが、その語源を尋ねれば意味深いものがあります。

『論語』(述而第七)に「子曰く、憤せずんば啓せず、悱せずんば発せず。一隅を挙ぐるに、三隅を以て反らざれば、則ち復たせざるなり」とあります。

「憤す」とは、知りたいという意欲が湧き上がってくること、「啓す」とは教え導くこと、「排す」とはうまく表現できずに言い悩むことです。

「知りたいという意欲が湧き上がってこなければ教えない。今にも答が出そうだけど言い悩むくらいでなければ教えない。四隅あるうちの一隅について教えた時、残りの三隅を自分で考えて返答しなければ二度と教えない」というような内容です(永田和宏「知の体力」と「問う力」)。

この文中の「啓せず」「発せず」から「啓発」という語の語源になったとされています。

語源を考えると「啓発」ということばを気軽に使うことはできないなと自戒しています。