質問

先日、当社敷地内の駐車場に駐車していた社用車が盗難に遭い、窃盗の犯人Aは翌日に盗難車を運転中、交通事故を起こしました。事故被害者は損傷した被害車両の修理費用について、犯人Aに賠償請求するとともに、当社に対しても賠償請求してきました。当社は賠償責任を負うのでしょうか。

回答

1 所有者の責任

交通事故において運転者が不法行為に基づく損害賠償責任を負うのはもちろんですが、盗難車両の所有者に車両の保管上の過失が認められるような場合は所有者もまた責任を負うことがあります。

このような場合、所有者に自動車管理上の過失が認められるか、所有者の管理上の過失と損害との間に相当因果関係が認められるかの2点が問題とされます。

⑴過失の有無の判断

道路交通法上、自動車を離れる時は車両の装置に応じ他人に無断で運転されることがないよう必要な装置を講じることが義務とされています。所有者は、公道など第三者が容易に自動車に接触できる所に自動車を放置しない、自動車の窓を閉め、ドア、トランクには施錠し、エンジンキーを他人に無断で使用されることのないよう管理するといった基本的なことが出来ていないと注意義務違反ありとして管理上の過失が認定されます。

⑵相当因果関係の有無の判断

通常、車両の保管上の過失と損害の間には条件関係は認められます。しかし、車両管理上の過失から損害発生までの間に、第三者による車両窃盗と第三者による交通事故の惹起という車両所有者の意図が介在しない事情が挟まれているような場合、管理上の過失から車両窃盗事件が通常起こりうるといえるか、盗難車両による交通事故が通常起こりうる事故といえるかといった観点から、管理上の有責性の程度、盗難事件と自動車事故の時間的場所的接近性等の事情を総合考慮して相当因果関係の有無を判断することになります。

2 裁判例

所有者が盗難車両にかかる責任を問われた近時の裁判例を紹介します。

この事案は、Y社が管理使用する普通貨物車を窃取したVは、窃取自動車を運転中に走行車線(第1車線)上に駐車中の車に衝突して隣の車線(第2車線)に進入し、後方走行中のZ社所有の大型貨物車に接触し、接触された大型貨物車がさらに隣の車線(第3車線)に進入し、第3車線走行中のXの車に接触したという多重事故において、Xが加入していた自動車保険の保険会社がXに自動車の修理費等を支払ったことでXに代位し、Y社およびZ社に求償するとともに、Xは保険の免責額分についてY社およびZ社に損害賠償請求したというものです。

第1審の東京地裁は、Y社の管理上の過失につき第三者が公道からY社駐車場に出入りすることは可能であったのであるから、Y社としては管理する車両をY社駐車場で保管する場合、車両を施錠した上でその鍵を第三者が使用できないように管理すべき注意義務があり、Y社従業員は、車のドアに施錠せずかつ運転席の日よけに鍵を挟んだままにして一定時間放置していたことにつき、Y社に注意義務違反の管理上の過失を認めました。しかし、故意によるVの窃取行為に加え、居眠り運転というVの運転走行上の重過失が介在していることを考慮すると、Y社の管理上の過失から本件事故による損害が発生するのが社会通念上相当であるとは認めがたいとし、Y社の賠償責任を否定しました(東京地裁平成30年1月29日判決)。

XとXに代位した保険会社は控訴し、控訴審の東京高裁は、Y社が車両の鍵は食堂に保管するよう内規を定めていたが、その内規を遵守させるべく鍵の保管について格別の注意を払っていた事実は認められないとして、Y社に管理上の過失があることは明らかであるとしました。そして深夜に自動車が盗まれることも往々にしてあることからすると、施錠しないまま駐車場に駐車しておくことは盗難の危険にさらして放置したといえること、運転席上部の日よけという容易に探索する場所に鍵を隠すというのは盗難を回避する手段として相当とはいえないこと、深夜に自動車を盗めば運転中に居眠り状態に陥ることも往々にしてあり一般的に稀有な事態ともいえないこと、事故の結果反動で並行車線に進入し追突事故を起こすことも格別稀有な態様ということもできないことなどから、Y社の管理上の過失とXの損害との相当因果関係を認め、Xらの請求を認容しました(東京高裁平成30年7月12日判決)。

これに対しY社は上告し、上告審の最高裁は、Y社が駐車場に自動車を駐車する際はドアを施錠し、エンジンキーを独身寮の食堂に保管する旨の内規を定め、公道から駐車場に第三者が出入りできる状態であったものの、近隣において自動車窃盗が発生していたなどの事情が認められず、Y社は内規を定めることにより自動車が窃取されることを防止するための措置を講じていたと言えるとし、Y社は従業員が自動車の鍵を日よけに挟んだままにしておくことがあったことを把握していたとの事情もないことからすれば、Y社に自動車保管上の過失があるということはできないとして、結論としてはXらの請求を棄却した1審の判断を支持しました(最高裁令和2年1月21日判決)。

3 本件の場合

当社の自社敷地内の駐車場が公道から壁、門扉などで隔てられており第三者が容易に入ることができないようになっていること、隔てられていなくても社屋から駐車場の監視ができ第三者の進入を容易に察知できるようになっていること、社用車を駐車する際の施錠の徹底、エンジンキーの管理の徹底、従業員の指導の徹底ができていたことなどの事情があれば、当社に管理上の過失は認められず、損害賠償責任を負うことはないものと考えられます。 

当社の管理上の過失が認められる場合でも、Aは盗難の翌日に事故を起こしていることから、盗難事件と交通事故とは時間的場所的に隔離しているとして相当因果関係が否定される余地があると考えられます。

福島の進路2020年4月号掲載