22 賃貸借

(1)賃貸借の成立

旧法は賃借人の返還義務を明示的に規定していないことから、新法は、引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することの合意を要すると規定しました(新法601条)。

(2)短期賃貸借

旧法は、制限行為能力者が当事者となる賃貸借につき存続期間を制限する規定(短期賃貸借)を設けていますが(旧法602条)、総則の制限行為能力者保護規定からすると不要の規定であることから、新法は、短期賃貸借の規定のうち制限行為能力者に関する部分を削除しました(新法602条前段)。

旧法は、短期賃貸借の期間を超過した賃貸借契約を締結した場合、契約全体が無効になるのか超過した部分のみが無効になるのか不明確であるため、新法は、契約で短期賃貸借の期間より長い期間を定めたときであってもその期間は短期賃貸借の規定に定める期間とするとして短期賃貸借の期間を超過した部分のみが無効になることを明文化しました(新法602条後段)。

(3)存続期間

旧法は賃貸借の存続期間の上限を20年としていますが(旧法604条)、新法はこれを50年に伸長しました(新法604条)。

(4)賃貸借の登記

旧法は、不動産の賃貸借を登記したときは、その後のその不動産について物権を取得した者に対してもその効力を生ずるとしていますが(旧法605条)、新法は、不動産の賃貸借を登記したときはその不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができるとし、二重に賃借した者、不動産を差し押さえた者なども対抗関係に立つことを明らかにしました(新法605条)。

(5)賃貸人の地位の移転

旧法は、賃貸人が賃貸目的不動産を第三者に譲渡した場合、賃貸人の地位が譲渡人(賃貸人)に留保されるのか、譲受人(第三者)に承継されるのか明文の規定がなく不明ですが、新法は、賃貸借の対抗要件を備えている場合その賃貸不動産が譲渡されたときは賃貸人の地位は譲受人に移転するものとしました(新法605条の2第1項)。ただし、賃貸人の地位を譲渡人に留保し、その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは賃貸人の地位は移転せず、その場合に譲受人と譲渡人の間の賃貸借が終了したときは賃貸人の地位が譲受人に移転することとしました(同条2項)。賃貸人の地位の移転について、新法は賃貸目的不動産の所有権移転登記を対抗要件としました(同条3項)。

旧法は、賃貸人の地位の移転に伴い敷金返還債務、費用償還債務も移転するか明文の規定がありませんが、新法は、地位の移転に伴い敷金返還債務、費用償還債務は譲受人またはその承継人に移転することを明文化しました(同条4項)。

旧法は賃貸人の地位の移転の要件について明文の規定がありませんが、新法は、不動産の譲渡人が賃貸人であるときはその賃貸人の地位は賃借人の承諾を要しないで譲渡人と譲受人の合意により譲受人に移転させることができるとの判例の考え方を明文化しました(新法605条の3)。

(6)賃借人の妨害排除等請求権

旧法は、賃借物が第三者に占有されてしまい賃借人が使用収益ができない場合に、賃借人が賃借権そのものを根拠に妨害排除請求することを認めず、占有訴権により妨害を排除したり、賃貸借目的物の占有を回収したりすることや、賃貸人の所有権に基づく妨害排除請求権や返還請求権を代位行使することは可能なものの、賃借人の保護として不十分であるとの指摘があります。

新法は、賃借権につき対抗要件を具備した賃借人は、第三者が賃借不動産の占有を妨害しているときはその第三者に対する妨害の停止の請求、第三者が賃借不動産を占有しているときはその第三者に対する返還の請求をすることができるとしました(新法605条の4)。

(7)敷金

旧法は敷金についての規定が不十分であることから、新法は敷金の定義、充当の仕方、返還時期等について規定しました。

敷金の定義については、名目を問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭とし、賃貸人は、賃借人から受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を賃借人に返還しなければならないとし(新法622条の2第1項)、返還時期については、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき(同項1号)、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき(同項2号)としました。これにより、敷金の返還よりも賃借人による賃借物の返還が先履行であることが明確になりました。

敷金充当について、敷金返還債務が生じる前に、賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務は、賃貸人が敷金をその債務の弁済に充てる意思表示をしたときは、敷金をその債務に充てることができることとしましたが(同条2項前段)、他方、賃借人がその債務の弁済に代えて敷金を充当するよう賃貸人に請求することはできないとしました(同条2項後段)。

(8)賃貸物の修繕

旧法は、賃貸人が賃貸物の使用及び収益に必要な修繕義務を負うこととしていますが(旧法606条1項)、賃借人に帰責事由がある損傷についてまで賃貸人に修繕義務を負わせるのは妥当でないことから、新法は、賃借人に帰責事由がある場合には賃貸人が修繕義務を負わないことを明文化しました(新法606条1項但書)。

旧法は賃借人の修繕権について規定を置いていませんが、新法は、賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず相当な期間内に必要な修繕をしないとき、もしくは急迫の事情があるときは賃借人自ら修繕することができるとし賃借人の修繕権を明文化しました(新法607条の2)。

(9)賃借物の滅失

1)賃借物の滅失による賃料の減額、賃貸借の解除

旧法は、賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は滅失した部分の割合に応じて賃料減額を請求することができ、残存部分のみでは賃借人が賃借した目的を達することができないときは、賃貸借を解除することができるとしています(旧法611条)。

新法は、賃借物が滅失したか否かにかかわらず、賃借物を使用及び収益をすることができなくなった場合に、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは賃料は当然減額され(新法611条1項)、賃借目的を達することができないときは賃借人は契約の解除をすることができることとしました(同条2項)。

2)全部滅失による賃貸借の終了

旧法は賃借物が全部滅失した場合の賃貸借の帰趨について規定していませんが、新法は、賃借物の全部が滅失その他の自由により使用及び収益することができなくなった場合には賃貸借はこれによって終了するとして、当然に終了することを明文化しました(新法616条の2)。

(10)転貸の効果

旧法は、賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は賃貸人に対して直接に義務を負うとしながら、その義務の範囲は明確にしていません(旧法613条1項)。新法は、転借人は賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく債務を直接履行する義務を負うこととしました(新法613条1項)。

旧法は、適法な転貸借の基礎となる賃貸借が終了した場合の転借人の地位について規定していませんが、新法は、賃貸借を合意解除した場合、賃貸人は、適法な転借人に対して合意解除の効力を対抗することができないとしました(同条3項本文)。判例は、賃貸借につき債務不履解除した場合は、賃貸人は解除の効力を転借人に対抗することができると解していることから、新法は、賃貸人が賃貸借につき債務不履行による解除権を有していたときは合意解除であってもその効力を転借人に対抗することができるとしました(同条3項但書)。

(11)収去義務、原状回復義務

旧法は賃貸借終了時の原状回復につき賃借人の権利として規定しています(旧法616条、598条)。しかし、賃借人が賃借物を受け取った後に生じた損傷については、原則として賃借人が原状回復の義務を負うべきものと解されることから、新法は、賃借人が賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷につき、賃貸借が終了したときは賃借人はその損傷を原状に復する義務を負うとし、賃借人の原状回復義務を明文化しました(新法621条本文)。ただし、賃借人の帰責事由によらない損傷については賃借人は原状回復義務を負わないこととし、通常の使用および収益によって生じた賃借物の損傷ならびに賃借物の経年変化については原状回復義務の対象外としました。(同条但書)。

福島の進路2019年3月号掲載