相続分の譲渡 相続放棄と異なる効果の画像

共同相続人のそれぞれは遺産分割前に相続財産の中の個々の財産を単独で処分することはできませんが、遺産分割前に遺産に対する割合としての相続分の全部または一部を第三者に譲り渡すことは単独でできるとされ、これを相続分の譲渡と呼びます。

相続分の譲渡をするのに、他の共同相続人の承諾は不要であり、相続開始後遺産分割前であればいつでも相続分を譲渡することができますが、相続開始前は当該相続分についての期待権があるに過ぎないので相続分の譲渡はできません。

相続分の譲渡先は共同相続人に限られず、相続人以外の第三者に対し相続分を譲渡することも可能です。相続分を譲渡した後は、譲渡人は遺産分割手続から離脱し、譲受人が遺産分割手続に参加することになります。内縁の配偶者のように遺産を受けるに値する状況にありながら相続権を認められない者も相続分の譲渡を受ければ遺産分割に参加し、譲渡された相続分に応じた遺産を承継することができます。

譲渡先が共同相続人のうちの一人である場合、相続分の譲渡は遺産分割の場面で相続放棄と類似の働きをしますが、相続分の譲渡では当人の相続分が譲受人に移転することになるのに対し、相続放棄では当人の相続分が他の共同相続人全体に移転することになるという違いがあります。

相続財産には債務も含まれるため、相続分の譲渡により相続債務も譲受人に移転することになりますが、これは相続債権者から見れば債務引受にあたり、譲渡人は相続分の譲渡をしても相続債権者の承諾がない限り債務を免れることはできず、譲渡人及び譲受人の双方が重畳的に相続債務の弁済義務を負うことになると解されます。

共同相続人以外の第三者に相続分が譲渡された場合、他の共同相続人からすれば、被相続人と全く無関係の第三者に遺産分割に加わってほしくない、親族のみで遺産分割したいと思うこともあるので、親族間で行われる遺産分割に他人が介入する不都合を回避するため、他の共同相続人は、その相続分の価額及び費用を償還して、譲渡された相続分を譲り受けることができます(民法905条(1))。これを相続分の取戻権と呼び、共同相続人のうちの一人だけでも行使することができ、行使するのに譲渡人や譲受人の承諾を必要としませんが、相続分の譲渡から1か月以内に行使しなければならないとされています(同条(2))。

平成31年1月23日福島民報掲載