質問

私Xは、長年事務機器を販売する会社Yの取締役を務めてきましたが、その経験を買われ、知人が経営する事務機器販売会社Zから社外監査役就任の打診を受けています。私が会社Zの監査役に就任することで法的に問題になることはありませんか。

回答

1 監査役の役割

⑴監査役とは

監査役は会社の役員であり、取締役(会計参与設置会社においては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査し、監査報告書を作成する役目を負います(会社法381条1項)。監査役は監査業務のため、いつでも取締役及び会計参与並びに支配人その他の支配人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況を調査することができ(同条2項)、その調査権限は子会社にまで及ぶものとされています(同条3項)。

監査役の監査の内容は、取締役の職務執行が法令、定款に反するものでないかチェックする適法性監査と、貸借対照表や損益計算書などの計算書類等に誤りがないかチェックする会計監査とがあり、監査の権限は法令違反や定款違反には当たらない取締役の職務執行の妥当性の点には及ばないと解されています。監査役は、会社の業務執行を担当する機関ではなく取締役の職務執行を監査する機関であり、業務執行について決定権も責任もない監査役が業務執行の当、不当を判断するのは監査権限を逸脱するものと考えられるからです。ただし、取締役の業務執行に著しく不当な事項、事実があると認められる場合には、監査役はこれを指摘することができるとされています(同法382条、384条)。

⑵社外監査役とは

会社法は以下のイないしホの要件のいずれにも該当する者を社外監査役と定めています(同法2条16号)。

イ 就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。

ロ 就任の前10年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。

ハ 当該株式会社の親会社等又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと

ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等の業務執行取締役等でないこと。

ホ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等の配偶者又は二親等内の親族でないこと。

通常の監査役と社外監査役とでその職務、権限において違いはありませんが、通常の監査役には会社の業務や内部事情に精通した当該会社の役員や従業員から選任することが多いため、少なからず会社の影響が残りやすいのに対し、社外監査役は会社に対しより高い独立性を持ち、社内の指揮命令関係の影響を受けずに客観的、第三者的な立場から適法性監査、会計監査を行うことが期待されます。

監査役会設置会社において監査役会を構成する監査役は3人以上でなければならず、その半数以上(3人で構成する監査役会であれば2人)が社外監査役でなければならないとされており(同法335条3項)、監査役会設置会社では社外監査役の設置が必須になりますが、監査役会の設置を要しない会社であっても委員会設置会社のように監査役を置くことができない会社を除き任意で社外監査役を置くことはできます。

2 本件の場合

会社Zの打診は、私Xが会社Yの取締役を務めながら、同業他社である会社Zの社外監査役に就任を求めるものですが、Xが会社Yと会社Zとの関係上上記イないしホの全てに該当するのでなければそもそも会社Zの社外監査役に就任することはできません。就任要件を満たす場合、会社Yの取締役の立場から、また会社Zの社外監査役の立場からどのようなことが法的に問題が生じないかを検討します。

⑴会社Y取締役の立場から

ある会社の取締役が他社の社外監査役に就任することは、法令上なんら制限されていません。そのため、本件においてXが会社Zの社外監査役に就任することを認めるか否かは会社Yの経営判断の問題となります。会社Yの取締役と会社Zの社外監査役を兼務することが会社Yの取締役としての業務執行の支障になると考え会社Yが難色を示すようであれば、Xが会社Zの社外監査役に就任することは会社Yに対する取締役の忠実義務(同法355条)違反になるおそれがあります。

また、取締役が自己または第三者のために会社の営業の部類に属する取引をなすには、取締役会においてその取引につき、重要な事実を開示し、その承認をうけることが必要とされ、これを取締役の競業避止義務(同法356条)といいます。会社Yと会社Zは同業であることから、Xが業務執行に携わる会社Zの社外取締役に就任するのであれば取締役の競業避止義務に抵触するおそれがありますが、社外監査役は会社Zの業務執行に関わる権限はないので競業避止義務違反の問題は生じないと解されます。

⑵会社Z社外監査役の立場から

監査役が他社の役員を兼務することは、法令上なんら制限されていません。

監査役は取締役が負うような、会社法上の会社に対する忠実義務や競業避止義務を負わないのでそれらの問題も生じません。

ただし、監査役は取締役と同じく会社の役員として会社との関係において委任に関する規定(民法644条以下)に従うため、会社に対して善良な管理者としての注意をもってその職務を行うべき義務を負い、善管注意義務違反があれば会社に対する損害賠償責任を負うことになります。Xは会社Zの社外監査役に就任した場合、その職務につき善管注意義務を問われることがないよう注意が必要です。とくに会社Yと会社Zが同業であることから、Xは、会社Yと会社Zの利益の衝突もありうることを想定して善管注意義務違反とならないよう職務を執行しなければなりません。

福島の進路2022年6月号掲載