質問

当社は運送業を営む株式会社です。当社は長年、Aから1筆の土地を賃借し、土地の一部に当社の事務所、倉庫を建て、それ以外の更地部分を資材置場や荷揚げ、操車、駐車用のスペースとして利用してきました。先日、Aから当社との間の土地賃貸借契約を解約するので1年後に土地全体を明け渡すようにとの通知を受けました。当社は1年後に本件土地を明け渡さなければならないのでしょうか。

 

回答

1 賃貸借契約と借地契約

⑴民法の賃貸借契約

民法は、賃貸借の存続期間は最長50年としている一方、期間の下限について規定していません(民法604条1項、令和2年4月1日の現行民法施行前に締結された賃貸借契約には改正前の民法が適用され、その場合存続期間は最長20年になります)。

期間満了により賃貸借は終了しますが、合意により自由に契約を更新することができ、更新期間は更新の時から最長50年とされます(同法604条2項、改正前の民法が適用される賃貸借契約の場合は20年を超えることはできません)。期間満了後も借主が使用収益を継続しているのを認識しながら貸主が異議を述べないときは従前の賃貸借と同一の条件でさらに賃貸借したものと推定されます(同法619条1項)。

当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができ、土地の賃貸借の場合は解約の申入れの日から1年を経過することによって賃貸借契約が終了します(同法617条1項1号)。

⑵借地借家法上の借地契約

借地借家法において、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権を借地権と称し(借地借家法2条1号)、借地権の存続期間の下限は30年とされ(同法3条)、期間満了後更新時の存続期間は、最初が20年以上、2回目以降は10年以上になります(同法4条)。

借地権の存続期間の満了後、借主が引き続き借地を使用、収益している場合に、貸主がそれを知りながら異議を述べないときは、契約の更新があったものとみなされます(同法5条2項)。期間満了の際に借地上に建物がある場合、借主が更新を請求したとき、貸主自ら使用する必要があるなど正当事由をもって遅滞なく異議を述べない限り契約は更新されたものとみなされます(法定更新、同法5条1項)。

貸主に正当事由が認められるか否かは、①貸主・借主が土地の使用を必要とする事情、②借地に関する従前の経過、③土地の利用状況、④貸主が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換に借主に対して財産上の給付(いわゆる立退料など)をする申出をした場合はその申出を考慮して判断しますが(同法6条)、あくまで①貸主がその土地を使用する必要性があることが前提になります。 

2 建物所有目的の有無の判断

建物所有の目的が認められるか否かは、借地借家法上の借主保護の規定の適用の有無にかかわるのでしばしば紛争の争点になります。

建物所有の目的とは、借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を築造し、これを所有することにある場合を指し、借地人がその土地上に建物を築造し、所有しようとする場合であっても、それが借地使用の主たる目的ではなく、その従たる目的にすぎないときは建物所有の目的を認めないのが判例です(最高裁昭和42年12月5日判決)。建物所有が主たる目的か否かは、契約締結までの過程、契約内容、実際の土地の利用態様などをもとに判断します。

当初から土地上にゴルフ練習場の経営に必要な事務所用等の建物を築造、所有することについて貸主から承諾を得たうえでゴルフ練習場として使用する目的でした土地の賃貸借は、土地自体をゴルフ練習場として直接使用することが主たる目的であって、特段の事情のない限り建物の築造、所有は土地使用の従たる目的に過ぎないとして借地借家法の前身である借地法の適用を否定した裁判例(最高裁昭和42年12月5日判決)がある一方、同じゴルフ練習場敷地の賃貸借であっても、建物の構造や規模、建築費用、建物の土地上の位置、契約書に建物所有を目的とすること及び借地借家法の適用があることを明示していることからすれば室内練習場及びポンプ室を備えた打席棟をその土地上に所有することを目的とすることにつき当事者間において合意していたといえ、特段の事情が認められるとして借地借家法の適用を肯定した裁判例(名古屋高裁金沢支部令和2年9月30日判決)があるように、建物所有の目的の有無は具体的な事情によって判断されるべきものです。

3 本件の場合

Aは当社との本件土地賃貸借契約につき、建物の所有を目的とする賃貸借契約ではないものとして民法617条1項1号により解約申し入れから1年を経過することで当該土地賃貸借契約が終了するとして明け渡しを求めてきたものと解されます。

当社とAとの間の契約締結までの過程、本件賃貸借契約の内容、当社による本件土地の更地部分の利用態様などの諸事情をもとに建物所有の目的が認められるかを判断しますが、当社にとって運送業務の事務を行うための事務所と貨物保管のための倉庫は経営上必須の建物であり、事務所、倉庫では金銭や貨物を取り扱うことからすれば建物は簡易な構造のものではなく、本件土地に対して相応の面積を占めるものと想定されます。

また、運送業務において荷揚げ、トラックの操車、駐車もまた必須の業務であることから、事務所、倉庫と荷揚げ、トラックの操車、駐車のスペースは一体のものとして利用されているといえ、その利用態様を長年継続してきたこと、それをAが認識していたことなどの事情からすれば、荷揚げ、トラックの操車、駐車に使用しているスペースが借地全体に対し比較的大きな割合を占め、外形的には建物所有が従たる目的に見えるような場合であっても、特段の事情が認められ借地借家法が適用されるものと解されます。

当社は本件土地を明け渡す義務はないものと考えられます。

福島の進路2022年3月号掲載